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ベランダの攻防

夫の住むアパートに、ダンボール3箱分程の、最低限の物のみ携えて引っ越して来た私の、先住者との戦いの記録。《2016年6月》

ベランダに鳩が来て困っている。鳩そのものには何の恨みもないのだが、彼らの落とす糞や羽でベランダが汚れるのは嫌なのだ。しかし実のところ新参者は私の方で、彼らはここで生まれ育っているらしい(!)。鳩が生まれ育つって、結構な環境だと思うのだが、夫は多分、色々とあまり気にならない人なのだろう。加えて小さい動物が好きなので、鳩に対しても見かけると声をかけたりして楽しそうにしている。外で野良猫に出会った時と同じように愛でている。

先月、結婚式の準備(結婚式当日の話はこちら)で本格的にベランダを掃除しなければならなかった時は、さすがに夫も鳩に対して不満を述べていたが、その後買うことにしたと言っていた、音で鳩を追いやる為の装置は一向に買う気配がない。一度、私がカラスのダミーを段ボールで作ったことがあったのだが、笑えるくらい全く何の反応も示されなかった。勇ましく羽を広げて飛んでいる格好にしたのに。数回場所を変えて吊り下げて見たが、ほぼ無視。悔しい。

鳩は巣を作ろうと、アパートの周りの木や草をせっせと運んで来る。一本ずつ口に加えてトコトコと歩く様子は、見るとほのぼのするが、私たち(主に私)はその度に心を鬼にして妨害して来た。物の陰に作ろうとするので、出来るだけそういう空間を作らないように工夫もした。しかし本当にいつまで経っても諦めない。ある時は壁と物の間の細い隙間、またある時は観葉植物の根元。そのNEVER GIVE UPさは文字通りなのだ、感心してしまうほどに。いや、実は何も考えていないだけなのかもしれないが。

手すりの上を小走りに走る鳩が滑った所などを目にすると、ちょっと得した気分にもなるが、やっぱり来ない方がいい。これからもっと暖かくなれば、ベランダで過ごすことも増えるだろう。こちらの夕暮れは既に10時近くと遅いので、夕食をベランダのテーブルでとる時もある。ちょっと外に出るだけで、普段の食事が一層美味しく感じられるから、私は好きだ。

と、ここまで書いた所で状況に変化が見られた。二日程前から鳩がぱったり来なくなった。原因はというと、数日前、ついに完成した巣の上に、太めの鳩がどっしりと腰を下ろしていた所を夫が急襲し、産んだ卵ごと巣を処分したのだった(その時の母鳩の必死の形相が忘れられない)。母鳩は相当恐ろしい思いをしたと見えて、二三度戻ってきたものの、巣を作ろうとはせずにいなくなった。巣を作ることが防げないと、産んだ卵を奪うという、更に鬼のような所業をしなければならないのだ。

鶏のことを考えれば、何を今更センチメンタルな、という気もしなくもないが、直面するとやはり気分は複雑である。夫もしばらくは罪悪感に苛まれるのか、シュンとしていた。そして不思議なのは、毎日3〜4羽が仲良く手すりの上を歩いたりしていたのに、1羽も来なくなったことである。
母鳩が他の鳩にも知らせたのだろうか、あの家には鬼が住んでいるから近づくなと。

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