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FC物語(2)立ち上げ前にやったこと


ゼミの1&2期生とのビジョン策定ミーティング

フューチャーセンターを立ち上げようと決めてから、オープンゼミを1年間運営してきた1期生と、その1期生に憧れて国保ゼミに入ってきた2期生とともに、2011年3月25-26日で震災前から企画していた春のゼミ合宿を実施(行き先は近場に変更しました)。その合宿では、国保ゼミとしてのミッションやフューチャーセンターのコンセプトについて徹底的にディスカッションしました。

この合宿には、私たちの活動を応援してくださっていた中央精工株式会社を経営する中村克海さんも参加してくださり、ゼミのミッションとフューチャーセンターのコンセプトづくりにご協力いただきました。中村さんは「普段と全く違う視点で会社経営を考えられる」(静岡新聞2010.11.22記事)からと、定期的に研究室に遊びにきてくれていたのですが、経営学を学ぶ学生にとっては実際の経営現場の話が聞けてプロジェクトの相談にも乗ってくれる中村さんは貴重な存在であり、憧れの社会人でもありました。

そんな中村さんの意見が交じったことで、自分たちのやっていること・やろうとしていることの価値を客観的に確認することができたように思います。また、学生や私だけだと教育現場側の視点にどうしても偏ってしまいがちなところを、中村さんが産業界や地域社会からの視点をもたらしてくれたため、コンセプトのバランスが良くなったとも思っています。

5時間くらいを費やした春合宿でのミッションミーティング(2011/3/25)

ちなみにその時にディスカッションの末に学生たちが決めた国保ゼミのミッションは、「問題の本質を全力で見つけて解決できる人を育て、輩出する」で、そしてその成果の指標が「卒業時に、やりたい仕事が明確になった人の輩出率」でした。ドラッカーの5つの質問のフレームを使ったからか、今見てもなかなか本質を突いた定義だと思います。

また、中村さんはこの国保ゼミのフューチャーセンターが地域にとって必要なものであり、地元企業として応援したいからということで、後日立ち上げ資金を寄附してくださいました。これは本当にありがたく、学生が主に運営を担う国保ゼミのフューチャーセンターの立ち上げと運営という目的において、学生のために使える資金があるというのは本当に助かりました。この寄付金によって、立ち上げスピードと成功確度が大きく高まったと思っています。

対話の象徴、楕円テーブルを購入!

その資金を使って最初にやったことは、テーブルの購入でした。せっかくいただいた大切なお金ですので、何か1つは象徴となるモノを使いたいと思い、ゼミ生が増えて手狭になった研究室のテーブルを新調することにしました。ゼミでもフューチャーセンターでも、活動の中心はディスカッション。なので、ディスカッションに適したテーブルを皆で選ぼう!ということになり、ゼミ生全員と中村さんとで、地元でセンスのいい家具を扱うクラフトコンサートさんに出かけました。家具も素敵なのですが、とても雰囲気がよい屋根裏部屋のような空間があり、フューチャーセンターもこういう雰囲気にしたいよねと話すことでフューチャーセンターのイメージを共有することができたのもいい経験でした。

目指した空間のイメージ@クラフトコンサート(2011/3/24) 一番左が中村さん

皆で大きさや形を検討した結果、フリッツ・ハンセンのスーパー楕円テーブルがいいねということになりました。楕円なので上座下座ができないこと、少人数でも大人数でも使いやすいこと、皆でフラットに程よい距離感でディスカッションできることなどが理由です。ただお値段が非常に高かったのと、私たちの話をきいたクラフトコンサートさんが「そういう用途であれば、テーブルの型は自分達でデザインしたらいいのでは?その型通りに造作家具をつくってあげるよ」という提案をしてくださり、その提案に乗っかってハンセン風楕円テーブルの型を皆で作ることにしました。(このテーブルに関するエピソードは後述します)

本家フリッツ・ハンセンの楕円テーブル@クラフトコンサート(2011/3/24)

研究室のリフォーム

テーブルを決めて数か月後、次はテーブルに合わせて研究室全体をリフォームしました。活動そのものは学生たちが担っているので、私は環境面での整備を担当しようと、学生たちが使いやすく、学外の方が寛ぎやすく、というあたりを主眼においてレイアウトを考え、デザインはクラフトコンサートさんにお願いして、自然と会話が生まれるような居心地のいい空間をデザインしてもらいました。このとき私の頭にあったのは、ドコモがiモード(1999年~)を開発したときに重要な役割を果たした「クラブ真理」。多様な人が、カジュアルに(←ここ大事)混ざり合った状態がイノベーションには必要です。この研究室に、色んな人が集って、つながり、静岡や日本の未来を創るイノベーションが生まれる場になることを目指しました。

とはいえ、ハードウェアにお金をかけることにためらいがあったのも事実です。活動がメインなんだから、ハコは何でもいいんじゃないかなあと。でもこのときも中村さんに「経営者が訪れておおっと思うような空間にしたほうがいい」と背中を押されて、そんなものかなあと皆の意見に従いました。でも結果的に中村さんが正しかった。リフォームしてから明らかに人の在室頻度があがり、ここに来れば誰かがいるという状態ができました。またステキ空間で過ごすことで、自分たちのやっていることがそれだけ意味のあることだという意識も芽生えるようです。投資効果は十分あったなあと今では思っています。

改装前の研究室(2011/7/29)
改装後の研究室。窓の外の風景は一緒です(2011/9/28)

後日談として、このときデザインを担当してくださったクラフトコンサートのご主人は数年後に他界されたのですが、その後奥様が別件で大学を訪れる機会がありました。せっかくなので見ていってくださいと研究室にご案内したところ、部屋に足を踏み入れた奥様が「主人が好きなようにさせてもらったことがよく分かります」と仰っていて、しばらく2人でご主人の思い出話に花を咲かせました。ハードってこんな素敵な効果もあるんだなあと思った出来事でした。

GE式問題解決ワークショップを学ぶ

さて、活動を立ち上げるためにはハードウェアだけでなく、ソフトウェアの充実も必要だということで、ディスカッションを通じた問題解決ツールを身に着けるために、中村さんのご紹介&GE社のご厚意により、合理的意思決定のメソッドであるGE式ワークアウトのセミナーを学生向けに実施していただきました

もともとは企業向けのこのワークアウト、社会経験のない学生相手にどこまで伝わるかなあと当初は危惧していましたが、やってみたら全く問題なかった。寧ろ社会人では出てこない斬新な意見があったりして、GEの講師の方々にも楽しんでいただけたようです(GEの方も学生向けにやるのは初めてだったそう)。

このときに学生たちからは、「1人では限界がある問題解決も、チームや組織になると自分が思いつかないような意見、面白い意見があり、問題解決のためにチームや組織の重要性を改めて感じることが出来た」「今までの自分の思考回路に無駄がたくさんあったことに気付いた」「原因を自分たちに置くことの重要性を学んだ」「ファシリテーションの重要性が分かった」等の感想が出ており、フューチャーセンターにつながる学びとなりました。

GE式ワークアウトのセミナー風景(2011/9/28)

その他にもいろんな社会人の方に様々な形でご協力いただきつつ、ソフトを充実させていきました。慶應SDMのデザイン思考ワークショップに行ったり、三田の家を視察したりもしました。こうした学外の研修には学生と一緒に行くこともありましたが、学生だけで行くことも。そのために「組織の活動にプラスとなる学びについては、その学びをゼミに還元するということを条件に、必要な経費(参加費や交通費など)を研究室が負担する」という研究室独自の研修制度を設けていました。

この慶應SDMのワークショップで使用したイノベーション対話ツールは、なんと公表されています。ワークショップ技術の説明など、ノウハウてんこ盛りです。

目次
(1)立ち上げたきっかけ
(2)立ち上げ前にやったこと
(3)立ち上げ初期に大変だったこと  ←次はこれ
(4)実践を通じて分かったこと
(5)場の構成要素
(6)数年後に考えたこと
(7)プロジェクトの具体例
(8)コロナ後の大学生の状況

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