見出し画像

[西加奈子]白いしるし

どっぷり恋愛ものの作品は久しぶりで、懐かしい感情を呼び起こしてくれた。

初めての西作品を読んでみて。
文体が好き。彼女の作る言葉の海に気持ちよく漂える感じ。

私は好きな個所や言葉に蛍光ペンで線を引く癖があるのだが、この「白いしるし」にもたくさんの蛍光ペンの痕がつくことに。

アルバイトを続けていかなければ生活は出来なかったし、したくもない仕事を引き受けて絵を嫌いになるよりは、このままずっと、趣味と仕事の間で、ふわふわと絵と対峙していたかった。
誰かに澱を投げつけることも、そして、その後に後悔で身悶えすることもない、苦しさとは無縁の生活があるのかと思った。
ひとりの知り合いは、神経の彼方までいっていた。
自分の体の細胞が、その、甘い水で満たされていく、日々だった。
私は彼のことを手に入れたかったが、彼と「恋人」の愛情の襞に立ち入る勇気は、とうとう持てなかった。

ままならぬ自分の感情と、それ以上にままならぬ他人の心。恋愛ってそうだったなあ、と少し思い起こす。
主人公の夏目は「凪の海みたいな恋愛がしたい」とこぼすが、そんな恋愛、どこを探したって、きっとない。
過去に何度も失恋を繰り返し、その度に心も身体も相手に委ね、傷つき、相手に醜態を晒し、完全に「あかん人」になり下がる。
きっと誰でも。どんな人も経験があるはず。
臆病になり、警戒するようになっても、また繰り返す。夏目も。

「白いしるし」はそんな物語。



いいなと思ったら応援しよう!

あきこ
読んでくださってありがとうございます!少しでも共感してもらえたり、優しい気持ちになってもらえたら嬉しいです。フォローしてもらえると喜びます。