「人を幸せにする技術」をピュアに、オープンに、楽しく
武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダシップコース クリエイティブリーダシップ特論の授業の第9回(9月6日)レポートをまとめました。
今回は、Code for Japan代表の関 治之さんにご講演いただきました。
プロフィール
関 治之さんは「行政・市民・企業の三者による、地域づくりへの挑戦」を行うCode for Japanを立ち上げ、運営されていらっしゃいます。
本日の資料:Let's Make our City
東日本大震災以前はエンジニアとしてご自身の会社を経営されていました。震災のときに震災情報が集約されるsinsai.infoを立ち上げ、一晩で100人以上の協力者が集まり、配給や交通機関等の情報が集約されるようになりました。
これが契機で今の活動につながり、地域課題への貢献について考え出し、「技術は人を幸せにするのだろうか」という疑問を持ち始められました。
当時はインターネットも使えない、スマホを持っていない方もいたため、直接的に技術がどう人を助けるのかを考える契機となりました。技術には差別を助長したり、格差を助長している可能性があると感じられる一方で、技術が貢献している領域もあり、きちんと活用する事が必要で、その使い方に着目するようになりました。
そして技術の貢献という観点で、行政/自治体は共創のためのシステムをうまくデザインできていないのでは?と疑問を持ち始めました。
Code for Japan立ち上げの経緯:伽藍とバザールの比喩
荘厳な教会と人々が賑わう市場の2つのスタイルを、 開発スタイルに見立てると...
伽藍:綿密な計画、堅牢な設計、中央集権、長いリリース期間
→変化に弱く、一つの組織にノウハウが留まる、利用者は手を出せないといった特徴がある
バザール:変更を受け入れる、自律的な小集団、早くこまめにリリース
→OSSコミュニティはバザールのスタイルによって発展してきた
*画像、文言を本日の資料'Let's Make our City'より引用
行政は伽藍スタイルであると捉え、このバザールのスタイルを行政にも取り入れられないか?と関さんは考えられました。
人々が行政に参加し、一緒に創りあげていくよう活動することを目指し、まず一緒に考えて行動できる場が必要であり、この場を創るべくCode for Japanを立ち上げられました。
Code for Japanでの事例:新型コロナウイルス感染症対策サイト 「行政らしくないサイト」
最新のデータが反映され、グラフィカルで見やすく、良い意味で「行政らしくない」と話題になりました。
また「行政らしくない」として共に話題となったのが、このサイトがGithubでオープンソースが公開されている点で、東京都の取り組みとして新しいものです。要望が反映され(Github内のissuesタブに追記できるようになっている)、提案を受けて改善に繋げられるようになっており、世界中の開発者と共創できるようになっています。
Code for Japan「らしい」事例
遠隔療養者モニタリングシステムもGithub上でオープンソースを公開しています。
災害情報まとめサイト「紙マップ」では、印刷して地図上の災害情報を見られます。
接触確認アプリのCOCOAについては、国民に安心して使ってもらえるよう関係者が一丸となって開発や不具合の解消を進めることを目指し、プロセスをオープンにしていかれました。
ガバナンスと個人・コミュニティの関わり方
個人やコミュニティがガバナンスに参加することは、従来以上に重要になります。例えば選挙のように限定されたときだけではなく、常に関わりを持って共創していく場をCode for Japanでは創っています。
Decidim:市民参加のためのデジタルプラットフォームです。「都市や組織のための自由でオープンソースの直接参加型民主主義」を実現されていきます。
行政は堅いものという印象が強いが、Code for Japanが楽しそうなのはなぜ?
立ち上げ当初は「正しいこと」をやろうとしていましたが、やっている中で人々は「楽しいこと」がやりたいと気付き、「楽しいこと」をやろうと考えるようになられました。そして「楽しいこと」をやるにはクリエイティブの力が重要だと感じていらっしゃいます。
例えば、遊びゴコロのあるデータクレンジングのwebサイト「BADオープンデータ供養寺」(どこか懐かしいクリエイティブで楽しいです)があります。
作業だけでは楽しいと言えるものではないデータクレンジングを、クリエイティブの力で楽しくされています。
感じたこと
取り組みそのものの素晴らしさは当然のように感じつつ、「技術が人を幸せにするのか」について、ご自身の技術や熱量をもってピュアに追求し続けていらっしゃる印象で、その姿勢から幸福度の高い個人のあり方を体現されているように感じ、強く印象に残りました。
質疑の中でCode for Japanを始めてから傍観者ではなく主体的に関わるといった姿勢に変わり、ご自身のwell being度合いが「爆上がり」されたとおっしゃられておりました。
幸福度向上の観点で、自らの行動を自ら選択できること(自律性)や人生の目的が意識されることが個人の幸福度の向上につながるのは、人を幸せにする要素についての研究においても言及されており*、それらが人生に与えるポジティブな影響がある事を関さんがおっしゃられた通りに感じました。
「人を幸せにする技術」を、オープンな行政と市民がつながる場を通じて実現されている姿から、私自身もとても楽しい時間を過ごさせていただきました。
*参考文献:何が人を幸せにするか? - 明治学院大学機関リポジトリ p.101-102
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