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ビジョンを造形したアート作品

武蔵野美術大学 大学院のクリエイティブリーダーシップコースでは座学やワークショップだけでなく、アートの制作も行います。

作品

ありたい姿
油絵具、アクリル絵の具、キャンバス
2022年

自分のありたい姿とは、家族が楽しさと幸福感を共有しながら生活できる共同体になることである。
人の脳にはミラーニューロンという他者の感情に感化され、感情が伝播する細胞が存在する。つまり、身近にいる人が楽しければ、近くにいる人も自然と楽しくなる。であるならば、楽しく幸福な状態でいる個体数が増えれば、共同体に存在するネガティブな感情を支配し、共同体としての幸福度が高まるのではないだろうか。
普段は生活や家事育児、仕事に追われてネガティブな感情が家庭内で伝播してしまうシーンが多々ある中で、家族が共通の楽しみを持ち、体験を共有し、ポジティブな感情も共有できる方法として何があるかを考えた。
家族で海に行って遊ぶことが好きなため、家の玄関を開けたらすぐにビーチにアクセスできる環境があると楽しめるのではないだろうか。気分が重い日、感情がネガティブな時であっても、玄関の扉を開けてビーチに飛び出すことができれば、きっと気分も変わるはず。

玄関の扉の絵は、閉塞感や閉ざされた心の状態を表現している。玄関の扉を開きビーチが見えている絵は、自宅の玄関から直接ビーチにアクセスして、これから遊ぼうという期待感を感じるシーンを表現している。
作品の形態としては、扉が開けた後のビーチの明るい雰囲気、実際には存在しないビーチとつながった玄関の構図、扉の重々しい感じ、などを表現するためには油絵が適していると考えた。また、絵を2枚にすることで、心の変化、対比の表現を試みた

展示風景
制作過程 1/4

家族という身近なコミュニティにおいて、妻や子供が不機嫌であると自分も不機嫌になる、ということを漠然と感じていた。この感情の伝播のメカニズムに興味を持ち調べたところ、人の脳にはミラーニューロンという感情を共感する細胞があることがわかった。

制作過程 2/4

感情の共有がミラーニューロンで行われるのであれば、この細胞をコントロールすることができれば周囲の負の感情の影響を意図的に遮断することができるのではないだろうか?と考え、人工的なミラーニューロンによって意図的な感情コントロールのシーンを造形物として表現しようと考え、スケッチを行った。

制作過程 3/4

人工ミラーニューロンの試作品を作成したが、自分が実現したいのは人工的に感情の共有をコントロールすることではない。問題提起としては面白いと思ったが、感情が細胞で伝播するのであれば、感情の共有を選別するのではなく、楽しいポジティブな感情を生み出し、それを体験として共有できる仕組みがあれば良いのではないか。そうすればその感情が自然と伝播して家族というコミュニティは幸福になれるのでは、との考えに変化した。

制作過程 4/4

造形物から方向転換し、家族で楽しい感情を生み出すシーンにテーマを絞り油絵への制作に切り替えた。自宅の玄関の写真を撮り、キャンバスに下書きをして制作を進めた。絵に登場するサーフボードは自宅にあるもの、ビーチは近くの辻堂海岸に行って写真を取り、それらを参考して制作を進めた。

制作の振り返り
テーマ設定では、家庭において、不機嫌になってしまう自分の感情をコントロールできるようにしたいという思いを出発点にした。
自分が不機嫌になる原因を分析した際、妻や子供の不機嫌が自分に伝播してしまい、不機嫌になってしまうというシーンに注目した。感情の伝播を調べてみると、それがミラーニューロンという細胞の影響であるという科学的根拠を知り、興味を持った。
事象を観察して調べてみた結果、自分がなんとなく体感していることが科学的に実証されていて興味深かった。
表現をする、という観点では、事象とその課題や原因がクリアになると、より表現の発想も具体化するという感覚を得ることができた。概念的なテーマをアートとして再構築するには、自分の中でテーマの解像度をあげ、アートとしてのメタファーで再構築できるだけの理解が必要であることが体感としてよくわかった。
そして実際に制作を始めてみると、制作前に自分が設計した作品とは違う発想が生まれたり、テーマが深掘りされて別の表現の方が良いのでは、という感覚が出てくる。今回はその直感に従い、制作途中で大きく方向転換をしたが、結果として納得がいく作品を作ることができた。油絵はこれまで数枚程度の制作経験で、かつ本作品ほどの大きさの絵をこれまで描いたことがなかったが、表現したいものの思いの強さと納得感があれば、工夫をしながら制作ができるということがわかり、制作に対する自信にもつながった。


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