誕生日の再会

日本全国を旅すると、突然シェアハウスを退出した彼女。しかし、彼女が退室してからも、実は頻繁にLINEのやり取りしていた。

東京を発ち東北に向かった彼女からは、ちょうど桜前線が北上中とあって桜の写真が送られてきた。そんな彼女に負けじと、僕もまだ散らずに踏みとどまっている東京の桜を写真で送る。花が好きな彼女は、綺麗な花を見つけては写真を送ってくる。それまで花なんて見向きもしなかった僕も、道端で花を見つけたら写真に撮って送り始めた。

そんな日々が一ヶ月ほど続いた。

ある５月の日曜。

その日は浅草の三社祭の日。特に予定も無かったので、たまには観に行ってみようかと思っていた矢先、

「キョウ、サンジャマツリ イキマス！」と彼女からのLINEが！

「えっ！？　今東京！！？」

なんと、いつの間にか彼女は東京に帰ってきていたのだ。

で、「会えたら会う」ことにした。
なんだそれ、と思うかもしれないが、電話回線契約をしておらず、WIFIしか掴めない彼女のケータイは、フリーWIFIが無いと連絡できないのだ。

なので会えたらラッキーか、くらいの気持ちでいざ浅草へと向かう。

東京住んで早７、８年。住んでいるシェアハウスからは自転車で15分ほどの浅草寺だけれど、三社祭を見るのは初めてだった。
そのあまりの盛り上がりに、（若干会うことは忘れ）１人盛り上がっている最中、

「イル？」と彼女からLINEが来た。
どうやら駅の公衆WIFI掴まえたらしい。

そこで、僕が今いる場所撮って送るけどなかなか会えない。
そうこうしてる間に祭に夢中の僕は動く。
で、もちろん、会えない。
そんなこと繰り返すこと実に、３時間！

まさかこのご時世に、（ケータイが無い時代の）トレンディドラマ並のすれ違いを重ねるとは思ってもみなかった。

気づけば祭も落ち着き始めていた。
浅草寺の境内の階段に佇み、周りを見渡す。日はもう暮れかけている。
今日はもう無理だろう、帰ろうか、そう思ったとき−

見慣れた顔の、でも少し日焼けした彼女がそこにいた（BGM：小田和正）。

「オヒサシブリデス！」

「ひさしぶりね〜！」

会えた。
会えたらラッキーくらいな感じだったのに、やはりトレンディドラマのすれ違いは、後の伏線なのだ。
共に境内に腰掛け、お互いの近況と日本のフリーWIFIについての愚痴（！）を言い、少し浅草寺周辺を周る。彼女はかつて、初めて日本に来たときにこの近くに泊まっていたらしい。

浅草寺に戻ると夜の神輿が始まっていた。
神輿を担ぐ日本人を見て、

「ニホンジン、クレイジーネ！」と笑う彼女。

いつもどちらかというと物静かな印象の彼女。こんな笑顔は初めて見たような気もする。

祭も終わり、余韻の残る境内で、花見のときのように屋台のご飯をシェアする。
冬の彼女しか知らないから、薄着の彼女に少しドキドキする（オレ、アラサーだけど…）。

彼女は現在、都内某所のゲストハウスに滞在しており、またしばらく東京にいるらしい。なので、また会う約束して帰路につく。

ふと時間をみようと、ケータイを見て気づく。

今日、誕生日だった。

期せずして最高の誕生日プレゼントだったかもしれない。