真夜中のルーティーン第1部(3)

(3)
 いや待て。冷静になろう。まずは深呼吸。
 考え直せ。ガタッと音がしたことと靴下が消えたこと。

 今起こってるのはこの二つだけ。

 確かにわたししかいないこの部屋で

 わたし以外に音を立てる者はいないし

 靴下を持っていく者もわたししかいない。

 でも玄関の鍵を掛けていれば

 わたし以外がこの部屋に入れるはずがないじゃない?

 そうよ。

 そしてもし、鍵が開いてたら……全力で逃げ出すの。

 裸で? ……パンツは履いてる。

 やっぱりブラぐらいした方がいいかな?

あ、あははぁー!


 ブラはリビングのカラーボックスの中!

 はっはぁー。はぁ……。

 仕方ない。さっきまで着けてたのを使おう。

 せめてTシャツぐらい着てもいいよね。

 洗濯かごの中にあるはず。この際、臭いとかは目をつぶろう。
 そしてわたしは廊下に出た。

 できるだけ音を立てないように。

 玄関のドアを見る。

 電気消してるからよく見えない。

 仕方なくドアまで行って鍵に手を触れようとした瞬間。

ピンポーン♪

 と玄関チャイムの音。

「ひゃっ!」

 肺と心臓が鷲掴みにされた。

ドンドン!

 と誰かがドアを叩く。

 ダメ。もう息ができない……。

「駅前交番の安田です。エミさん、大丈夫ですか?」

 え? 交番の安田さん?

 すぐに安田さんの笑顔が浮かんだ。

 いつも駅前通る時声をかけてくれるお巡りさんで

 イケメンじゃないけど実直そうで

 笑顔が優しい感じで「ザ・いい人」な感じの人。

 そういえばさっきも駅前で声をかけてくれてたっけ。

 ドアスコープを覗くと心配そうにしてる安田さんの顔が見えた。

 わたしは急いでドアを開けた。

 心配そうにしてる安田さんの顔が見えた。

 わたしは急いでドアを開けた。

「今悲鳴が聞こえたようですが大丈夫ですか?」

 怖くて怖くて抱きつきそうな自分をやっと抑えた。

 いや、さすがこの格好で抱きつくほど

 自分を見失ってないって。

 安田さんに玄関に入って貰って、廊下の電気を点けて

 ぐちゃぐちゃの"わたしの痕跡"を見せながら説明した。

 ああ、これが赤裸々っていうんだ

 なんて頭のどっかで思ったりして。

「確かにおかしいですね。

 ……もう一度確認しますが、おかしなことは

 物音がして、廊下に出てみたら靴下が失くなっていた

 だけ、なんですね?」

 確かにそれだけといえばそれだけなんだけど

 それってあるはずないことだし。

 ちょっとブスくれた顔をしてみる。

「いや、気を悪くしないで下さいね。確認してるだけなので……」

 わかってますよ。お仕事ですものね。

 そういってわたしは視線を安田さんの顔から下に向けた。

 わかってはいるけど、ちょっとムカつくし。

 安田さんもバツが悪そうに

 手にした書類ボードで顔を隠すように何やら書き込んでいる。

 優しい感じの人だけど、やっぱりわたしよりも背も高いし

 警察官だけあってガタイがいい。

 腰の辺りにある黒いのは拳銃? 

 いや、パトロール中に持ってるものなのかな?

 その時、そのすぐ近くに"ある物"が見えて

 安田さんの腰の辺りに目が止まった。

 ねえ、知ってた?

 あり得ないものを見た時、

 人間は理解が追いつかないで首を傾げるの。

 そして次に、息を呑んでガン見する。

 どんどんわたしの目は大きく見開かれていく。

 何だろう?
 おでことこめかみが引きつってる感じ?

 わたし、見ちゃったの。

 安田さんのズボンのポケットから

 "イチゴちゃん"が顔を覗かせてるのを!

 わたし、まぁいい年なんですけどぉ

 イチゴ柄が好きでしてw

 基本的に後輩に舐められたくないし

 恥ずかしいから服装はもちろん、下着だって

 普段はイチゴ柄のものは着ないんだけど

 靴下って見せることないでしょ?

 飲み会で座敷とかでない限り。今日はブーツだったし。

 だから今日は久々にイチゴちゃんを履いてたんですよ。

 で、その見覚えのある"イチゴちゃん"が

 失くなったはずの"イチゴちゃん"が

 安田さんのズボンのポケットから

 『こんにちわ』って……。

(4)へ続く。
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