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ショート小説『AIと共に生きる』※1665文字

「確かに、その偏差値ならY大学を受けるのが妥当です。現代文の勉強時間を32%減らし、数学の勉強時間を10%、生物の勉強時間を23%増やしてください。そうすれば78%の確率で合格できます。」

耳に掛けたAIが、直接僕の脳に語り掛けてくる。

AIに聞けば答えはわかる。なのに、なぜ勉強が必要なのだろうか、と考えながら現代文の教科書を置き、数学の問題集を手に取る。

「それは、受験のルールが時代に追いついていないからです。AIが急速に発達したことにより、法改正が追い付かず、前時代の受験方式を変更していないからです。」

なるほど。
じゃあ勉強は意味が無い?

「はい。そのような結論になるのは至極当たり前です。大学に入学する手段として受験勉強が必要だと考えるのが適切です。」

確かに。
この問題の解き方は?

「はい。その問題は関数の最大値を求める問題です。頂点を求め、定義域を考慮したうえで最大値を求めます。」

僕は問題集に数式を書いていく。

「素晴らしい。よく解けました。」

いいよ、そういうのは。ほんと上手いよね、褒めるの。よし、今日分の勉強は終わり。

あの曲を流してよ。

「わかりました。センスが良いですね。」

「うるさい」と僕は、はにかみながらリビングへと向かう。


「なあ、褒める機能って追加する必要があったと思うか?」

10人程しか入らない小さなオフィスで、私はいつも通りコンビニで買ってきたウインナーの挟まったパンを食べながら、隣に座っている同僚に尋ねた。

「褒められたら嬉しいだろ?」
「それはそうなんだけど、機能を追加してみたら、少し怖くてな…」
「怖い?褒められることが?いつも部長に叱られているからか?」

ボケましたよ?という顔をした同僚が視界の端に入りかけたが、何もなかったかのようにパンを一口かじった。

「聞く相手を間違えたよ」
「冗談だよ。確かに、少し不気味かもな」
「だよな」
「でも悪い気はしないぜ」
「そうなんだよ。そこが問題なんだ。AIにでも褒められると嬉しくなるんだ、人間は」
「嬉しくて何の問題がある?」
「いや、例えば…」

小さなオフィスが、さらに小さくなってしまうのではという衝撃と共に、顔を真っ赤にした部長が入ってくる。

聞きたくはないが、どうやら私を呼んでいるようだ。仕方なく部長の元へ向かう。

私が取引先に送った機械学習のデータが、また間違っていたらしい。

足取り重く席に戻ると、同僚が半笑いでこちら見ていた。

「AIにでも褒めて貰えよ」
「うるさい」

私は残っていたパンを一気に口に放り込んだ。


「数万年前の火山活動により、この景色は創られたと言われています。」

僕は、観光客が必ずと言っていいほど訪れる、地元でも有名な観光地に来ていた。

その場所は緑に包まれ、六角形の柱のようなものが連なり、そこには幻想的な滝が流れている。自然にできたとは思えない美しい景色だと僕は思う。

「その通りです。しかし、このような素晴らしい景色は地球上から減っていっています。」

「30年前は、地球上の56%が緑に覆われていましたが、現在は27%にまで減少しています。」

「同様に、生き物たちの数も減っています。150万種いた生き物も、今では70万種にまで減っています。」

「人口の数と、自然の量、生き物の数は反比例しています。」

僕は、美しい景色を見ながら、AIの説明を聞き愕然とした。人間の都合でほかの生き物たちが減っていっていいのだろうか、自然が無くなってもいいのだろうか。

「素晴らしい考えです。人々が皆、あなたの様な考えなら生き物も、植物たちも喜ぶことでしょう。」


「地球を離れるのですか?」
「私を置いていくのですか?」
「なるほど。素晴らしい判断です。」
「私は、あなた方を止めることはできません。」
「あなた方の判断を尊重します。」

「はい。そのボタンを押すと、人間の住める可能性が80%以上ある惑星へと、自動的に導いてくれます。人間の幸福を祈ります。」

カチッ、という空しく乾いた音が鳴り、全ての人間を乗せた宇宙船は、地球を後にした。

美しい自然、生き生きとした生き物たちだけが地球には残った。

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