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通学

 7時半。駅前のバス停で下車する。肌寒かった昨日までとは異なり、今日は快晴で一段と暑い。車道を横切り、かつての下町を感じさせる通りを抜け、神社の脇道に入り、生活道路へ進む。桜の花びらが茶色く散らばるこの道を直進し、診療所で左折すると4階立ての校舎が見える。校門をくぐって、朝練をしている生徒を横目に校舎最奥にある下駄箱まで早足で歩き、素早くスリッパに履き替えて校舎に入った。2階にある教室にたどり着くと「2年2組」の室名札をよく確認しながら引き戸を開けて入室した。何人か既に来ていたが話はせず、席で各々が好きなことをしていた。僕の席は最後列の窓際だ。席替えで引き当てた時はとても嬉しかった。その1つ前の席では深野詠葉が眠っている。最近彼女のことが気になっていて挨拶するのも緊張するため、起こさないように静かに席に向かった。しかし、突然深野は跳ね起きて、
「おはよう!」
と元気に言った。彼女の大きな瞳がこちらを向いていて、目が合った僕のことをメデューサのように固まらせた。動けるようになり挨拶しようと勇気を出した瞬間に、彼女はまた机に突っ伏して寝てしまった。僕の勢いのついた体は途中で止まらず、最終的におかしな会釈になった。席にたどり着くと、まず机にリュックを下ろして窓を開け、そのあと椅子に座った。前を向くと彼女の背中が汗で透けていて白いブラジャーの線がくっきりと見えていた。無理矢理に目を逸らして、机にうつ伏せになったが全く眠れなかった。
 8時10分。朝練が終わった生徒たちが走りながら、一斉に教室に入ってきた。制汗剤の匂いが広がり混ざり合ったおかしな香りが鼻を刺激する。その瞬間、テレビの雑学が頭をよぎり、さっきかいた汗が気になり始めたが、朝礼が終わる頃には忘れていた。その後の授業はいつも通りよく眠れた。

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