橘玲 『言ってはいけない中国の真実』

★★★★☆

 2015年に『橘玲の中国私論』として出版されたものを改題して文庫化したもの。文庫化の際に一章分が加筆されています。
 3年前に出たとはいえ、内容は古びていないと思います。本書に限らず、数年で古びてしまう内容のものを書く著者ではないので、いま読んでも何の問題もないでしょう。

 日本にとって近くて遠い国——中国——を様々な角度から紐解いている本書。正直なところ、僕は中国に対して漠然とした印象しかなかったので、偏見を改めるためにも、また昨今の嫌中の風潮に抗する意味でもとても役立ちました。

 中国の抱える問題や慣習などは、その膨大な人口と国土にあるといっても過言ではありません。13億人を一つの国家として統合する上では、他の国と同様には考えられないことが多いようです。
 なにせ13億人ですからね。市場規模としても桁違いです。

 たとえば、中国ではGoogleもTwitterも使えないそうですが、代わりに百度(バイドゥ)や微博(ウェイボー)があり、中国の一般消費者にとってはそれで十分なようです。他の国の人からすると不便に感じるかもしれませんが、代替物としてはおそらく遜色がないのでしょう。
 こうしたことが可能なのも、巨大な人口と市場ゆえでしょうね。人口が数百万人の小国では同じことは成立しませんから。

 とはいえ、グローバルスタンダードからは乖離している点は否めず、そうした事実が日本人の理解を遠ざけている一因かもしれません。

 また、共産党による一党独裁といっても、実際のところ、地方は各自治政府によって運営されており、中央政府の管理はそこまでいき届いてはいない様子です。
 中央政府が一括管理するには、あまりに広く、あまりに人が多いからでしょう。

 共産党と地方政府による二重構造の行政、汚職に対して厳格でありながら(汚職によって死刑になることすらある)賄賂が横行している現状、と中国という国には一筋縄ではいかない混乱が渦巻いています。

 詳しい内容は本書に譲るとして、とにかく驚かされることが多かったです。
 この巨大な隣国に少しでも興味がある方にはお薦めです。

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