橘玲 『「リベラル」がうさんくさいのには理由がある』

★★★★☆

『週刊プレイボーイ』誌に掲載されたコラムをまとめた1冊です。2016年に出版されました。
 時系列ではなく内容によって章分けされているので、一つひとつのコラムは短いけれども、読み応えがあります。
 特に最初の沖縄での集団自決事件を扱った章は、現在の政治的状況をふまえると、非常に考えさせられます。僕はほとんど知らずに読んだのですが、その泥沼っぷりに中てられてしまいましたね。

 事実はひとつだけれど、その事実の受け取り方は受け取るの人の数だけ存在します。さまざまな立場の人たちが、それぞれの思惑で主張をすれば、当然まとまるわけがありません。
 僕のような第三者は論理的整合性に則って判断すればよいと思ってしまいますが、当事者には当事者の事情と感情があり、そう簡単には割り切れません。

 何事にも言えることだと思いますが、まずはできる限り事実を正確に知ることです。そこからしか始まらないです。思惑や主張や主義が先にくると、事実すらいとも容易く歪められてしまいます。そうなると、あとは水掛け論です。「双方の主張が真っ向から対立」といった状況はそういうところから起きるのでしょう。
 もちろん、そうした理性的な判断をするのはきわめて難しいわけで、個人的な感情を一旦留保することができる人はあまりいないでしょう。

 その他、労働・雇用問題、福祉や移民問題、憲法改正などの時事問題などにも触れられています。リベラリストを自認する筆者が快刀乱麻に自説を展開していくのが痛快です。

 とはいえ本書に書かれている主張は、現在の日本社会ではとても常識にはなりえないだろうな、と暗澹たる気持ちにもなります。
 こういった〝リベラル〟な考え方を支持する人が増えていけば、日本社会もどんどん変わっていくのでしょうか?

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