吉本ばなな 『「違うこと」をしないこと』

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★★☆☆☆

 2018年10月刊行の対談&エッセイ&お悩み相談本です。たまたまもらったので読んだ次第です。

 吉本ばななの小説は昔まとめて何冊か読みました。直近だと『キッチン』を再読した記憶があります。平易だけれど、フックのある文体、それを支える独自の価値観をしっかり感じさせます。それから、やさしい。これくらいやさしい小説を書く人ってそれほどいない気がします。

 小説のことはさておき本書ですが、正直なところ、スピリチュアル色が強くて、耐性がないとちょっと胸焼けします。何と言ったらいいのでしょう。言ってることはまちがってないんだけど、そんなに「愛」を連呼されても食傷してしまうといったところでしょうか。

 対談相手の白井剛史という方の「宇宙マッサージ」というのもなんだかよくわかりません。ギターウルフみたいな言語センスだな、と思いました。だって、『星空ジェット』や『地球ラブ』と並んでても違和感がないですよね?

 思うのですが、スピリチュアルな内容のものって、スピリチュアルな要素をストレートに言語化しなければ、わりと受け入れやすいのですが、スピリチュアル臭のする語彙で語られると、急に敷居が高くなります。
 吉本ばななの小説にも、スピリチュアルな性質は底流しています。けれども、小説というフォーマットに落とし込んで、そのなかで言葉をえらんでいるため、読んでいて引っかからないと思うのです。少なくとも、僕が読んだ初期〜中期あたりのものはそうでした。

 それから、愛のような強い言葉って、オールマイティすぎて、かえって何も表せないことが多い気がします。愛というものは「愛」という言葉を使わずに表してこそ心に響くのであって、実際に使ってしまうと興ざめするというか。「愛」は取り扱い注意なワードです。

 対談という性質上、どうしても発言が直截になりがちなのは仕方ないにしても、やはり読んでいてキツイところが多かったです。

 反面、エッセイの部分はさすがです。
 内包しているメッセージは変わらないのに、文章のかたちになると、作家吉本ばななの本領発揮とばかりに、おそろしく自然に流れています。

 というわけで、ほぼ本書の半分を占める対談箇所と、ひと言お悩み相談の部分に関しては、個人的には「なくてもいいかな?」という感じです。エッセイだけでいいです。

 しかし、吉本ばななって昔からこんなにスピリチュアルな人でしたっけ? 小説しか読んでなかったので、そのスピリチュアルっぷりにわりかし驚きました。

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