内田樹 『そのうちなんとかなるだろう』

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 今年の6月に出た内田樹氏の自叙伝です。

 共著も含めると、これまでに100冊(200冊?)以上の著書を出している内田樹さんですが、おそらく自伝的な本はこれが初めてでしょう。
 これまで僕も氏の著書を何十冊と読んできましたが——そして、ブログもたくさん拝読してますが——、時系列に沿ってご自身の人生について語っているものは寡聞にして知りません(各エピソードは色々なところで語られていますけれど)。

 メモワールといってもよい内容なので、中身は想像がつくでしょう。生まれてからこれまでの人生が赤裸々に語られています。

 日比谷高校中退 → 大検取得 → 東大 という珍しい学歴を持つ内田さんですが、とにかく地頭がよいのでしょう。いつも感嘆します。
 世の中には自分の想像を超えて頭のよい人がいるのだなあ、と感心したのは、内田樹さんが初めです。僕が哲学書などを読み囓っていたので、自分との理解の差を目の当たりにして、余計にそう思いました。世界は広い。

 著書によってはいくぶん難解な内容のものもある内田樹さんですが、本書はかなりお気楽に読めます。
 誰でも一冊は本を書ける、と言いますが、時代背景も手伝ってか、内田氏の人生は実にカラフルかつ起伏に富んでいます。教訓やためになる内容も随所に鏤められているし、人生譚としても楽しめます。

 文章の流れを阻害させないリズムのよさ、複雑なことを"複雑なまま"わかりやすく説明できる頭のよさ、それらに加えて、全篇に伏流するヴォイスのおかげで、内田さんの文章は淀みなく読者の耳に入ってきます。
 風が抜けるようにすーっと読んでしまえるのが不思議で、いつもあっという間に読んでしまいますが、本書もその例に漏れませんでした。

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