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ワトソンが見た「束の間の夢」(遠慮なくネタバレ満載版)

森見登美彦『シャーロック・ホームズの凱旋』の発見報告

☆予めお断りしておきますが、長いです。スマホ片手に気軽に読める前稿「なるべくネタバレ回避版」もどうぞ。
☆注記は末尾にまとめてあります。注8以降は、本文に戻るのに利用できる小見出しを付けました。目次から小見出しを選んで本文に戻ってください。


(1)『凱旋』ついに刊行!

 2024年1月、森見登美彦さん待望の新刊『シャーロック・ホームズの凱旋』(以下、『凱旋』または「本作」と略記する)が刊行されました。
 本作の原型である、雑誌連載版『凱旋』第1話が掲載された「小説BOC 3」(注1)は、2017年4月の発行。つまり、連載開始から単行本の発売までに、7年弱を要したことになります。
 わが秋帽子プロジェクトでは、ある理由から、本作の刊行を長年待ち望んで来ましたが…。ついに、その時がやって来ました!

〈創作の謎に肉薄した『熱帯』〉

 その理由とは、他でもありません。
 本作は、“創作の謎”を追い求める現役作家による、エンタメ小説の形をとった、最新の探索報告書であると目されたからです。
 森見さんは、2018年11月に刊行された長編作品『熱帯』(注2)において、創作の不思議について粘り強い探索を行い、物語を生み出す力の源(作中の表現では「魔術の源泉」)、「贋物の世界を本物へと創りかえる」という〈創造の魔術〉と、そのために用いる「魔法の杖」である「魔王のカードボックス」について語っています。
 つまり、『熱帯』は、人気・実績を積んだ現役作家が、物語を生み出す力と、その力が創作にかかわる人々に及ぼす拘束力について探索を試み、その結果を公表した「探検記」(注3)なのです。
 特に、物語の舞台となる世界「熱帯」の創造者・支配者である「魔王」が陣取る書斎を描いた一節は、魔法の杖が振るわれる現場を具体的に書き記しており、創作の不思議に挑もうと志す者にとって必読の描写と言えるでしょう。
 以下、その一節を引用しましょう。

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30周年で六角形に!?深まる秘密が謎を呼びます。秋帽子です。A hexagon for the 30th anniversary! A deepening secret calls for a mystery. Thank you for your kindness.