見出し画像

意外と知らないヨーロッパのリーグ考察~ベルギー編 Part3~

知ってるようで知らない5大リーグ以外のリーグを紹介する本シリーズ。

Deloitte BelgiumからSocio-economic impact study of the
Pro League on the Belgian economyが発表されたので、今回も内容を読み解いていきたいと思います。

レポートはこちらから見れます↓↓↓

Part1、Part2は下記リンクより参照ください。

レポート概要

「Socio-economic impact assessment of the Pro League on the Belgian economy」とはDeloitte Belgiumにより、2021年6月に発表されたJupiler pro leagueの経済効果を測定したレポートです。
 「直接」「間接」「付随」の3つの経済活動にリーグの活動を分類し、それを数値化する方法で指標を測定しています。最新となる財務数値は2019-2020シーズンです。

ここで紹介されている指標から、リーグの特徴を考察するため「直接」の指標に絞って、年度比較し幾つか特徴的なものを考察していきます。

ベルギーリーグのおさらい

まずは、ベルギーリーグについておさらいしたいと思います。2019/20シーズンのリーグ名称は「Jupiler Pro League」が1部リーグ、2部リーグが「Proximus League」の名称で、Jupilerは大手ビール会社、Proximusは大手通信会社で、リーグスポンサーとなっています。1部が16チーム、2部が8チームでリーグ戦を戦います。

ホーム&アウェイの総当たりのリーグ戦の後、1部の上位6チームによるプレーオフ(PO1)を実施します。レギュラーリーグ戦の勝ち点を半分にした状態からホーム&アウェーの総当たりのリーグ戦を行い、1位がリーグ優勝&CL本選への出場権、2位がCL予選への出場権、3位がEL予選への出場権を得ます。
一方、レギュラーリーグ戦の7位以下と2部の上位6チームを加えたプレーオフ(PO2)も実施され、4チーム4グループによる総当たり戦を実施し、グループ1位の4チームによるノックアウトステージで優勝したチームが、PO1の4位チームとEL予選出場をかけたエキシビジョンマッチを行います。

結構複雑ですが、プレーオフ圏内に入れれば、ヨーロッパリーグへの出場権に近づけるチャンスの多いリーグとも言えます。しかしながら、19-20シーズンはコロナの影響によりリーグ戦最終戦を行わずにリーグ戦が終了し、プレーオフも中止になってしまい、3月半ばの試合を最後にシーズン終了となってしまいました。

20-21シーズンはコロナによる変則的なリーグレギュレーションとなりました。開幕2週間前に、ワースランドベフェレンがBASの裁判で勝利し、19-20での降格が取り消しされ、急遽18チームに1部リーグが増えるという波乱の幕開けとなりました。
プレーオフも上位4チームによるPO1(1位がリーグ優勝&CL本選、2位がCL予選、3位がConferenceリーグ予選)、5位~8位によるPO2(勝者がPO1の4位とConferenceリーグ予選の出場権を賭けたエキシビジョンマッチ)、それ以外はプレーオフなしでシーズン終了となります。

22-23からは19-20以前のリーグフォーマットへ戻すため、21-22は1部リーグから3クラブが降格します。プレーオフは20-21と同様のフォーマットです。

リーグの売上推移

コロナの影響が大きくなったのは2020年3月からなので、19-20においてその影響は限定的でした。クラブ全体の売上は373.5M€(≒485.6億円、130円/€以下同)、前年比▲5M€(≒▲6.5億円)▲1.3%となりました。この数値は移籍金収益は含んでいません。後程記載しますが19-20のベルギーでの移籍金NET収益が109.2M€(≒142億円)だったのでそれも合わせると627.6億円規模です。これは、J1リーグの2019年の合計売上890億円と比べて若干少ない規模です。(Jリーグとの対比はPart1で詳しくやっています)

放映権が79.5M€(≒103.3億円)となり、最終戦・プレーオフの中止が影響し前年比マイナスとなりました。また、ベルギーリーグはG5(アンデルレヒト、クラブブルージュ、スタンダールリエージュ、ゲンク、ゲント)の発言力が強く、リーグ全体収益の61%もG5で占められています。
一方で、UEFA分配金は国際大会の出場成績に応じて79.3M€(≒103.1億円)となり、前年比+15.7M€(≒20.4億円)+24.7%増加しコロナのマイナス分を吸収した形です。

チケット売上・観客動員

チケット売上は最終戦・プレーオフの中止が響き前年比▲6.1M€(≒7.8億円)▲6%でしたが、ほぼリーグ日程を消化し終わった2020年3月だったことが不幸中の幸いでした。しかし、合計観戦者数は前年比▲16.8万人▲25%という結果でした。動員の多い最終戦・プレーオフの中止が大きく響きました。

リーグ放映権

ベルギーリーグの放映権は20-21よりElevenSportsが103M€(≒134億円)/年で取得したと言われています。20-25までの契約です。19-20まではTelenetという国内事業者が放映権を取得していました。
19-20は79.5M€(≒103.3億円)がクラブへの分配金として計上され、G5が45%35.5M€(≒46.2億円)を分け合っています。51%40.4M(≒52.5億円)をK11と言われる1部リーグ11クラブで分け合う状況を見ると、G5がいかにリーグ内で優遇されているかがわかります。
J1リーグの分配金合計は94億円だったので、ほぼ分配金絶対額はベルギーとJ1リーグで変わらないという結果です。

スポンサー売上

スポンサー売上は19-20では契約は全てサイン済みだったこともあり、減少することなく76.4M€(≒99.3億円)の売上となりました。34.5M€(≒44.9億円)45.2%がG5で生み出され、残りのほとんどを1部リーグクラブで占めています。
スポンサー企業の特徴として、ベッティングが最もスポンサーに積極的であることがわかります。
J1リーグは2019年度で398億円だったので、4倍近くの数値です。J1リーグは売上比率の上でもスポンサー依存が高いリーグです。

人件費率

収益に占める人件費率はリーグ全体で19-20は60%を超えました。売上の減少は限定的だったものの、19-20自体がシーズン当初積極的な選手への投資が行われていた結果、最終的に人件費率が増加する結果となっています。2部リーグに関しては85%が人件費に使われているようです。

選手平均給与は249K€(≒3,230万円)。想像できるとおりG5の選手平均が大きく385K€(≒5,000万円)、K11の198K€(≒2,570万円)と2倍近い差があります。とはいえ、全体の選手人件費は減少しており19-20は236.5M€(≒307億円)です。J1リーグが2019年度で450億円の選手人件費を掛けていますが、売上規模の比率で行くとJ1リーグは50.6%の比率となるので、ベルギーリーグの方がより選手人件費へお金をかけている事になります。

移籍金・代理人費用

19-20は大型の移籍も多数あったため、移籍金NET収益は大きく増加し109.2M€(≒142億円)でした。

【主な高額移籍】※参照:Transfermarkt
Wesley:25M€≒32.5億円 (Club Brugge ⇒ Aston Villa) 
Sander Berge:23M€≒30億円 (KRC Genk ⇒ Sheffield United)
Victor Osimhen:22.4M€≒29億円 (RSC Charleroi ⇒ LOSC Lille)
Leandro Trossard:20M€≒26億円 (KRC Genk ⇒ Brighton)
Arnaut Danjuma:16.5M€≒21.5億円 (Club Brugge ⇒ Bournemouth)
Jonathan David:27M€≒35億円 (KAA Gent ⇒ LOSC Lille)
Jérémy Doku:26M€≒33.8億円 (Anderlecht ⇒ Stade Rennais FC)
Krépin Diatta:16.7M€≒21.7億円 (Club Brugge ⇒ AS Monaco) 

この年、KRC Genkはクラブ史上初めて収益が100M€を超えました。127M€(≒165億円)、前年の71M€(≒92億円)から実に56M€(≒72.8億円)も増加しました。

一方で、移籍市場の活況は代理人費用の増加も意味しています。19-20でベルギーでは合計46.6M€(≒60.6億円)が代理人に支払われました。大きな比重を占めるのは移籍に関わる仲介費で52%を占めています。また、上位5組の代理人が全体31%を占め、代理人平均で2.9M€(≒3.8億円)を得ている計算です。

ベルギーでは2020年の夏の移籍より、クラブはベルギーサッカー協会へ全ての代理人を報告し登録をすることを義務づけられました。FIFAの代理人業への免許制の復活も合わせ、代理人への監視が強められています。

ベルギークラブのオーナーシップ

ベルギーリーグは外資にオープンなリーグとして知られていますが、19-20シーズンで52%が外資クラブとなりました。コロナにより財務状況の悪化したクラブも多く、幾つかのクラブが2020年にオーナーが変更になることになりました。
ロケレンは破産しアマチュアクラブへ降格、オーステンデ、ムスクロン、ロンメル、ワースランドベフェレンが2020年にオーナー変更となりました。
少々古い情報ですが、2020年5月時点でまとめたnoteもこちらに貼っておきます。

まとめ

19-20はコロナの影響が限定的であったことが今回のレポートで良くわかりました。しかしながら、20-21はその売上減少額は80M~120M(≒104億円~156億円)と試算されており、来期のレポートでその影響額は全て明らかになるものと思われます。肌感覚でいくと、スポンサー売上への影響は限定的である一方、スタジアム収益はほぼ無観客であったことから大きな減少が見込まれ、移籍金についても買い手クラブの財務状況悪化とローン移籍の増加による退避的な動きが多かったことを考慮するとこちらも減少が見込まれます。

ただ、3年間追っているベルギーリーグ自体は、外資の力も借りつつリーグの収益は年々増加し、成長しているリーグと言えます。今後は国際化の動きを強め、5大リーグに次ぐリーグの地位を築いて行こうという意思を感じます。

#サッカー
#スポーツ
#スポーツビジネス
#ベルギーリーグ
#ベルギー