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意外と知らないヨーロッパのリーグ考察~ベルギー編 Part1~

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 私がベルギーに来て10か月が経ちました。2018-2019シーズンの途中から入り、今は2019-2020シーズンに最初から挑んでいます。
 ベルギーリーグについて、少しずつ分かってきている中で、改めてDeloitte Belgiumから公開されているSocial impact reportを読み直し、ベルギーリーグについて、日本との比較も交えながら、復習も兼ねてまとめておきたいと思います。

 また、「意外と知らないヨーロッパのリーグ考察」というタイトルにあるように、5大リーグ以外のヨーロッパのリーグについて、公開されているレポートを発見できたものについて、今後まとめていきます。

今回ははせりょーさんと一緒に考察しました。

レポート概要

 「Socio-economic impact assessment of the Pro League on the Belgian economy」とはDeloitte Belgiumにより、2018年6月に発表されたJupiler pro leagueの経済効果を測定したレポートです。
 「直接」「間接」「付随」の3つの経済活動にリーグの活動を分類し、それを数値化する方法で指標を測定しています。最新となる財務数値は2016-2017シーズンです。

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 ここで紹介されている指標から、リーグの特徴を考察するため「直接」の指標に絞って、幾つか特徴的なものを考察していきます。

リーグの経済規模

 ジュピラープロリーグの総収益は2016/2017シーズンで316M€とあります。日本円(120円/1€)で約380億円ほどです。
 ここに含まれているのは、
  ・UEFAのコンペティション出場賞金
  ・事業収入
  ・放映権収入
  ・スポンサー収入
  ・チケット、年パス収入
です。

ジュピラー収益棒グラフ


 移籍金収入がここに含まれておらず、別ページ(P18)で言及されていますが、NET移籍金収益が2016/17年で73M€となっていますので、日本円換算で約88億円となります。
 GROSS移籍金収益も含んだ収益合計は全体で389M€、日本円換算で約467億円の規模となります。収益構造を%化すると、
  ・33% 移籍金収入 
  ・17% チケット、年パス収入 
  ・13% 放映権収入 
  ・12% スポンサー収入  
  ・9% UEFAのコンペティション出場賞金 
  ・9% 事業収入 
  ・7% その他
こんな感じです。ご覧の通り移籍金収入がリーグの収益構造の中で1番大きくなっております(レポートのP29参照)。

Jリーグの2017年度J1のクラブ決算のクラブ合計総営業収入は735億円なので、その規模と比べるとどうでしょうか?意外と小さく感じますか?それとも、意外と大きく感じますか?
(参照:2017年度J1クラブ決算一覧)

【経済規模】
ベルギー2017年国内総生産(GDP): 4,927億 USD(≒54兆円:110円/USD)
ベルギー2017年人口:1,135万人

日本2017年国内総生産(GDP):4.872兆 USD(≒535.92兆円:110円/USD)
日本2017年人口:1.3億人
(Google検索調べ)

ベルギー一人当たりGDP:46,724.35 USD 19位
日本一人当たりGDP:39,305.78 USD 26位
(参照:世界の一人当たりの名目GDP(USドル)ランキング

上記の経済数値を見比べるとわかる通り、ベルギーは日本の約10分の1ほどの経済規模、人口規模しか持っていませんが、一人当たりGDPは日本を上回っています。その中で、J1リーグの全体収益規模との対比較では約80%近くもベルギーリーグは収益を上げており、サッカー経済がベルギー国内で存在感があることがうかがえます。

 また、J1リーグとのみ比較したのは、そもそもベルギーリーグは1部に16チーム、2部に8チームという構成であり、1部リーグとみなしての比較が適当と判断しているためです。

J1-ベルギーリーグ比較(概数)
スポンサー J1:326億円 ベルギー:70億円 対比率21%

入場料 J1:145億円 ベルギー:99億円 対比率68%
物販 J1:62億円 ベルギー:47億円 対比率76%
放映権(分配金) J1:85億円 ベルギー:75億円 対比率88%

観戦者数 J1:5,833,538人(※1) ベルギー:3,349,786人 対比率57%
※16/18チーム換算 J1:5,185,367人 ベルギー:3,349,786人 対比率65%

スタジアム集客率 J1:62.7%(※2) ベルギー:58% 
チケット単価 J1:2,419円(※2) ベルギー:2,955円(単純計算)

 入場料、物販については、ベルギーの客単価が少し高い影響もありますが、概ね対比率としては観客動員数と比例してJ1とベルギーと水準は変わらない印象を受けます。
 もっとも大きな違いはスポンサー収入で、ここに経済規模の大きな違いが表れています。ところが、ベルギーリーグはこのスポンサー収入を補ってUEFAのコンペティション出場賞金と移籍金収入で、全体数値としてはJ1リーグに約80%まで迫る収益規模を実現していることがうかがえます。

 今回比較してみて、BtoCであるチケットや物販は単価×客数なので大きな違いは生まれにくく、BtoBであるスポンサー収入において国の経済規模が大きく影響することがよくわかりました。2019 Forbes listの2000社を見たときにも、ベルギーの会社は10社ですが、日本は135社あり、協賛できる企業の絶対金額が違っていることがわかります。

リーグの競技制度設計

 ベルギーのプロリーグは、1部のジュピラープロリーグに16チーム、2部のプロキシマスリーグに8チームが所属し、リーグ戦を戦います。

ジュピラープロリーグ
 
・16チームが所属
 ・ホーム&アウェイ方式で年間30試合
 ・リーグ戦上位6チームがPlay off 1、下位10チームがPlay off 2へ
 ・16位のチームが降格
Play off 1
 
・上位6チームの勝ち点を1/2にした状態から、ホーム&アウェイ方式で10試合
 ・1位のチームが優勝+チャンピオンズリーグへの出場権獲得
 ・2位のチームがチャンピオンズリーグ予選への出場権獲得
 ・3位のチームがヨーロッパリーグ予選への出場権獲得
Play off 2
 ・2019/2020シーズンより、1部7位~16位、2部1位~6位のチームを4グループに分け、ホーム&アウェイ方式で6試合
 ・グループ勝者がノックアウトステージへ進出
 ・Play off 2優勝者はPlay off 1の4位のチームとテストマッチを戦い、勝者がヨーロッパリーグ予選への出場権獲得

というルールになっていて、とても複雑です。。。
(参照:Pro League

 上記の制度設計になっている理由は、Play off制度によりリーグの商業的盛上りを意図的に作り出すことでリーグの魅力を高めて、放映権やスポンサー料の向上を狙うことはもちろんのこと、Play off 1で上位チームでリーグ戦を行うことでクラブ競争力を高め、ヨーロッパの国際大会で好成績を収められるようにする狙いがあります。
 さらに、国際大会での活躍により、より高く選手を売ることも可能となり、その移籍金収益の最大化を図ることができます。それが、さらに良い選手の獲得につながり、クラブ収益を潤すという循環に繋がっています。
 
 また、ベルギーリーグには外国人枠が実質的に存在しないのも特徴で、ベルギー国籍またはベルギーで教育を受けた選手が6人試合の選手登録をされていれば、全世界から選手を獲得することができます。それに加え、25歳以下の選手については源泉税の還付制度があるため、若手選手を獲得し育成するインセンティブが働きやすいリーグとなっています。

 上記に加え、国際大会での好成績から、ベルギーリーグはUEFAのリーグランキングでは8位であり、高レベルのリーグとして認識されていることから、海外資本からは非常に魅力あるリーグに映ります。実際、現在のベルギーリーグには海外資本が多く入り込んでいます。

リーグ観戦者規模

 2017/2018シーズンのジュピラープロリーグ観戦者数は3,349,786人とレポートされています。リーグ戦、Play off 1、Play off 2合わせた数値です。
 レポートの中では平均観戦者年齢や、女性比率、若年層比率などをクラブ別に表示しているのも興味深いです。また、クラブ毎のファンの所在地マップもクラブ毎の特色を見るときには非常に参考になる数値です。

 J1リーグの2018年度観戦者数は5,833,538人。Jリーグは18チームあるので、16/18で単純比率計算すると5,185,367人。ベルギーリーグよりも1,835,581人ほど多い計算になります。
(※1参照:J League PUB report 2018)

 ここにもやはり、経済規模、人口規模が影響しています。また、ベルギーのスタジアムは1万人前後の収容スタジアムが大半であるためそもそもの最大収容数も違っていることも影響していると思います。
 もちろん、人口比率で見たときには、人口に対するのべ観戦者率では圧倒的にベルギーリーグに軍配が上がります。ベルギー30%、日本5%(単純計算)。
 
 2017/2018観客動員が1位のベルギークラブはClub Bruggeで492,892人。2018年度Jリーグのトップは浦和レッズで603,534人、2位FC東京で449,338人。Club Bruggeの人数規模だとJ1リーグの中では、2位に位置しています。
(参照リンク:J league data site)

スタジアム集客率はJ1リーグで62.7%、ベルギーリーグで58%となっており、ここでの大きな違いはありません。
(※2参照リンク:Jリーグマネジメントカップ2018 P08)

ベルギーリーグ考察のまとめ

 今回はレポートの中で実際に記されている内容からいくつか項目をピックアップしてご紹介しました。
 ベルギーリーグの規模感や特徴がわかっていただけたら幸いです。みなさん自身でも比較してみてもらったら、新たな発見があると思いますし、是非教えてもらいたいです。

 ベルギーという場所は地理的にはヨーロッパの中心に位置していますが、それは裏返せば隣国との競争に常にさらされるということでもあります。特に5大リーグに取り囲まれ、自国経済や人口が限られる中でいかに競争力を高めるか、ということに主眼が置かれているリーグだと考えます。
 ステップアップリーグにならざるを得なかったと同時に、その中でいかにリーグの魅力を高めるかということに向き合っている印象です。

(番外)STVVのスタジアム STAYEN Stadium

 今回レポートの中で、STVVの本拠地であるStayen Stadiumが例として載っています(P49)。
 Stayen Stadiumは100年程前から今の場所に存在するサッカー専用スタジアムで、2014年までにリノベーションを行いました。現在は、ホテル、ショッピングモール、オフィス、アパート等を併設した複合型スタジアムへと変貌し、地域コミュニティになくてはならないものになっています。
 日本の地方クラブの非常に参考になるようなスタジアムですので、チェックしてみてほしいです。

Stayen HP

また、the STADIUM HUBさんに取材してもらった記事により詳しいStayen Stadiumの話が載っていますので、よろしければ見てみてください。

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