漫画の描き方のコツ備忘録vol.5【ネーム・プロット編】③【コマの割り方】〈応用と補足〉
漫画の描き方のコツ備忘録vol.5
【ネーム・プロット編】③
【コマの割り方】〈応用と補足〉
今回も私が学び漫画に生かしてきた制作に役立つ情報を、小筆として書き留めていきたいと思います。
もっと楽しく、子供の頃のような気持ちで漫画を描ける方が増えると良いな~と思いつつも、現在、漫画制作を取り巻く大人の事情はなんやかんや純粋な創作にまで暗い影を落としがちでちょっと寂しくもあり。
せめて心細くなりがちな個人作業である漫画制作においては、意外と無料で探しにくい、まとまった基礎的な知識や制作に役立つ情報をこちらに置いていきたいと思います。
初心者の方、基礎を見直し中の方、漫画についてもっと知りたい、漫画制作が大好きな方などなどの一助となれば幸いです。
描く人に向けたお話が中心で、いつも通りマニアックな内容ですが、漫画制作にご興味ある方にもぜひお付き合いいただければ嬉しいです。
さて今回のテーマは【ネーム・プロット編】【コマの割り方】の二回目、コマの割り方について〈補足と応用〉です。
一回目の【コマの割り方】〈基礎〉未読の方はよければ、こちらからどうぞ
今回は実際のコマの作画について〈補足〉と、そこから一歩踏み込んで
【コマの割り方によって自分の漫画を演出する】
などのコマ割りの〈応用〉について、なるべく汎用性が高く、どんな作風でも共通して使える事に焦点を絞ってお話出来たらと思います。
目次です。
それではまず作画についての補足から
〈コマの割り方/補足事項〉実作画について
◇枠線の幅などは作風や主線の太さや好み、作品に合わせて決める。
アナログが主流の頃は、コマ枠線の太さは大体0.8m前後でミリペンや、開いたつけペン、ロットリング、カラス口という道具で引くのが一般的だったようです。
私は紙媒体商業のプロ時代はフルアナログ作画で、イソグラフ※というロットリング社の製図用ペンと、時々ミリペンを使用していました。
最近は0.5mm~1.0mmくらいの太さでという感じの幅があるように思います。読む媒体がスマホなど小さくなった事と、デジタル化の波で線が細めや太めの作画の方が増えた影響もあるのかなと思います。
私自身はデフォルメの強いギャグの時は太めの枠線、シリアスなストーリーの時は少し細くしていました。
そうしないと、枠線が細くて絵に負けてしまうか、太すぎて画面が見にくくなるからです。
一般的にも、線の細い丸ペン主流の少女漫画は枠線も細め、
Gペン主流の少年漫画は太めが多いので、その辺りも踏まえてご自分の絵の線の太さと比べて違和感がないくらいに調整されると良いかと思います。
また、回想シーンは線を細くする、二重にするなどなどこれも作風や作者の好みで個性が出る部分です。パッと見での通常枠との差が必要ですので、こちらとの兼ね合いも判断基準のひとつです。
イレギュラーなものとしては、均一な線ではなく手書き線で枠を引く作品もあります。こちらはエッセイ漫画などに多いかな~という印象です。
◇仕上げや、角度を綺麗に。
プロらしい画面に仕上げる一つのめっちゃ大事な要素として
〈仕上げをとにかく、またはなるべく丁寧に行う〉というものがあります。
一見、全く同じ画面に見えますが、仕上げをしていないものと、したものを並べると仕上げ丁寧にしたものは〈何かこっちの方が断然見やすくて綺麗な感じがする〉という印象の画面になります。
謎ですが本当です。
アナログであれば四角からはみ出た枠線、欠けた角、引き損ねてよれたり、一部のみ細くなったような線、跳ねたインクによる不要なドットなどなど。
仕上げの時には、不要な要素は徹底的に取り去り加筆や修正をします。
また枠線の縦横はきちんと90度に引き、コマ枠同士は常に平行に引くという事も非常に大切です。
デジタルでは必要ありませんが、
アナログの場合は、原稿用紙の端に長めの4、50cmの直線定規を合わせて、エッジ付きの大きな三角定規の90度の部分を沿わせて下に滑らせながら線を引く、などすると楽に90度の平行線が引けます。
◇コマ同士の間隔について。
コマ同士の隙間・間隔も、作者さんによって違います。通常のストーリー漫画では上下の隙間は高く、左右の隙間はその半分以下くらいになっています。
この間隔の開け方はB4原稿サイズ寸で、上下部5mm~10mm、左右部3mm前後など、作家さんによってかなりまちまちです。
色んな作家さんの開け方を見たり、自分の絵に合わせて引いてみたりして、好みや自分の作品らしいものを選択するのがベストですが、
これもあくまでも読みやすさと違和感のなさを第一優先にする事をおすすめいたします。
細かな認識できない違和感が、読み手さんのストレスになる可能性があります。
ある程度の法則を決めて作品内で統一するなどして、場所ごとで幅が広くなったり狭くなったりしないように気を配るだけでも、漫画自体の読みやすさに繋がります。
※クリスタ作画の場合には、「ファイル」→「環境設定」→「レイヤー・コマ」→「コマ枠」でデフォルト設定のみですがコマ間隔の変更が可能です。
◇クリスタでのコマのデジタル作画について参考サイト
デジタル作画では、山本電卓さんのクリスタ機能解説シリーズのブログが初心者にも理解しやすくオススメです。参考に一項目貼らせていただきます。
〈コマの描き方/補足事項〉実作画については以上となります。
ここからは、応用や演出についてです。
〈コマ割り方/応用〉自分の漫画を演出する
割り方や、配置、サイズ比率を工夫する事によって、全く同じコマ運びでも、読み手さんを作品に引き込みやすくする演出をほどこす事が出来ます。
あらゆる漫画を読み、コマの運び方について分析し、
自分で沢山描いていくのが一番ですが、すでに体系化されている汎用性も高いやり方などもございますので〈応用編〉として、基礎と合わせて使うための、いくつかのコツをご紹介していきたいと思います。
◇同じコマ割りの構成や、ずっと同じコマ数のページが続かないように気を配る。
例えば見開きで左右ページでコマの構成が同じだったり、ずっとコマの構成が同じ形だったり同じ構成を何ページもすると、何となく読んでいて単調に、既視感を感じやすくなります。
なるべく繰り返されないよう、手癖で描き続けないように俯瞰で見て気を配る必要があります。
また、最初から最後までメリハリなくほぼずっと同じコマ数が続くという状態も、読み手に単調な印象を与えます。
前回の説明のように、プロローグやクライマックス、オチなど重要な場面に大コマを取るなどすると、自然にページあたりのコマ数が減りメリハリが出ます。
◇見開き左ページの左上に魅力的なコマを
〈横読み書籍媒体=見開きで2ページ〉構成の場合は、奇数ページ=左ページの左上のコマが一番目に付きやすいと言われます。
雑誌をパラみした時に左ページ左角に目を引くコマがあると初見でも手が止まりやすく、読んでもらう確率が上がると言われています。
自分だったらどんなコマがそこにあったら、知らない作家さんでも手を止めたくなるか想像して配置し、特に新人のうちは気を使って、読まれる確率をあげる手をたくさん打っておきたい所です。
◇引きと見せゴマのメリハリでストーリーに引き込む。
また、左ページの一番最後・左下のコマに引き(次のコマが気になるようなシーン)を作り、
めくった右ページの一番最初・右上のコマを、見せゴマや決めゴマにするという有名な理論もあります。
つまり、ページをめくる直前に、次のコマへの期待をさせるような場面を持ってきて、めくったページすぐにその解答となる決めゴマを配置する。
これを繰り返すとページを読み進めて貰いやすいという、見開き横読み漫画の仕掛けです。全めくりページには難しいですが、出来る所だけでもなるべく使えると良いと言われるテクニックです。
スマホ横読みなどの場合には、毎ページがめくりのコマになりますが、このあたりについても、次第に体系化されてくるのではないかなーと思います。
◇横方向への進行の方が、縦方向への読み進みよりも時間経過をスピーディーに感じる場合がある。
ちょっとこれには感じ方に個人差があるかなと個人的には感じますが、一応こういう風にも言われております。
コマ間の太さ・距離の問題でしょうか…?
◇文庫コミック昔の作品が、11コマで見づらくならない理由について
前回少し触れたブラックジャックなどの時代の漫画が11コマでも見づらくならない理由についての補足です。
そもそも昔の漫画は、人物のデフォルメが強く顔は大きく、表情やキャラクターや背景全てがデザイン的かつ記号的で、パッと見で情報が頭に入りやすく、現代ほど描き込みも多くないため画面が見やすくなっています。
加えて、コマの中の描き込み具合や白黒の密度と濃度のグラデーションに秀逸さがあると見やすいという点があります。
漫画の画面は黒すぎても白すぎても見づらくなります。
実は、適度に黒があり、適度に白があり、それを繋ぐ間の濃度(斜線などの書き込み、トーンが)がうまくグラデーションのように、適度な濃淡で配置されていると非常に画面が見やすくなります。
そして、11コマほどあるような場合にはページの中にあまり多くのセリフ(文字数)がないというパターンも多いです。
さらに、これは私がブラックジャックなどのコマ詰めがあっても見やすい漫画を観察し気付いた感覚的なものですが、
1ページを少なめの5コマに、さらにコマサイズに大きくメリハリを付けて割っても、キャラクターの正面の〈胸像〉だけを配置し続けると同じ話でも非常に画面が見づらく単調になります。
図解
右は胸像、左はメリハリをつけたもの。
うっかり漫画っぽくしたら分かりにくくなった…
でもせっかく描いたので上げときます。これをストーリー漫画としてキッチリ背景まで作画すると、右は画面として本っ当に見づらいんですけど、おや??
…忘れて下さい。
ともかくご自分でも試しにその辺りの紙に適当にコマを多めに割り、全てのコマに大きく胸像や吹き出しを描いてみてください。
そうすると、コマ数を増やすほど、窮屈でコマが多いようにも少ないようにも感じるページが出来上がるかと思います。
次に、全く同じようにコマを割って、
今度は一つずつのコマに、人物の顔のアップ、胸像、全身像、コマの中の人物は小さくして引きで背景も描く、背景だけなどなど、
コマの中に配置するキャラクターのサイズの比率、視点のカメラの位置や高さ、背景の有無などに、かなりメリハリを付けて描いてみてください。
すると、同じコマ数でもこちらはかなり見やすく、場合によってはちょっとコマ数が物足りもなくなったかと思います。
これは本当に原理が謎なんですが、実際描くとそうなります。
ここで大事なのは、コマのサイズ関係なく、そのコマと中の人物のサイズの比率に強弱をつける点です。
そして、人物を描く構図にも正面や側面、背面、俯瞰、あおり、半身胸像アップロングなどメリハリをつける事。
絵柄や描き込み量にもよりますが、この原理を使うとコマ数を増やしてみても、かなり画面が見やすくなります。
そして、ページがどう~しても足りない時にごまかしがききます!笑
これらを利用してコマを割ると、コマ数が多めでもわりかし見やすいという状態を意図的に作る事が出来ます。
もちろん限度はありますけれども。
◇ストーリーにおいて不要な、意味のないシーンを1コマも作らない。
当然ですが、ページ数に限りがあるという事はコマ数にも限りがあります。
仮に16ページの読みきり、1ページあたり6コマまでしか配置出来ないとすると、表紙を抜いたコマの総数は90コマです。
大ゴマを配置する事を考えれば、実際にはもっと少なくなります。
1コマ1コマ無駄に出来ない大事なコマです。
ストーリーをコントロール出来るようになってくると、全てのコマ1つずつの意味が説明が出来るようになるかと思います。
全てのコマの中のシーンに意味があるか。
そのコマの大きさの意味が説明出来るか。
無駄なコマがないか。
これらを理解しながら描く事で、コマの無駄遣いがなくなって読む際のテンポも良くなり、離脱率も下がります。
(一応、無駄コマについての補足ですが、説明のつく無駄なコマは、必要なコマとなりますので削減の必要がありません。
例えば、何の意味もないこの背景コマがある事で次のシーンへのワンクッションになる。などが説明のつく、必要な無駄ゴマとなります。)
【ネーム・プロット編】の【コマの割り方】編は以上となります。
非常に基礎な事ばかりですが、ここまで押さえておけば、漫画を描く上で特殊な技法・コマ割りについての基本知識は十分かと思います。
あとは描きながら、書籍を読んでみたり、ほかの方の割り方を見て自分に合った法則を試したりなど、応用して個性を伸ばすのが一番良いかと思います。
コマの中で展開する物語を映画とするなら、コマ枠やコマの構成は映画館の環境のようなものです。
やたら回りにゴミが落ちていたり、スクリーンが曲がっていたり揺れ続けたり、外側で気になる音がしていたり、そういった点が全くない映画館では気にも止めませんが、
一度そんな事がある映画館で映画を見てしまうとそちらが気になって、とても映画を見るどころではなくなってしまいます。
作り手としては読み手さんが物語に集中できる環境を、相手には気付かれずに作る事も非常に基本的かつ大切な点かと思います。
さてここからはいよいよネームやプロットを作っていく作業についてのお話にも入っていきたいと思います。
しかし、ストーリーを立てていく事についてのお話の前に…、、、
プロでもアマでも初心者さんでも、創作者としては非常に大切な、
漫画を制作するにあたって最低限知っておきたい著作権や、オマージュ、パクリと言われるものなどについての自己防衛にもなる知識!
を前後編でお話しておきたいと思います。
このあたりをざっくりとでも理解しておけば、ある程度安心して創作活動が行えるかと思いますので、ご興味がある方はぜひお付き合いいただけましたら幸いです。
文章が2、3たまってしまったので何回か週刊で土曜夜更新いたします。
最後までお読みいただきありがとうございました。
よろしければ是非また!
以下宣伝につき
(いかん宣伝面倒くさくなってきました…一応やらねば)
よくわからん謎人が描き方をワソワソ出してても申し訳ないので、一応、作品の販売ストア様リンクなどのある漫画描きのポートフォリオサイト・マンガノさんの、自身のマンガフォリオを自己紹介に貼っておきます。
当方、広域ストア様にて電子書籍発行している元紙商業漫画家・現デジタル野良プロ?漫画家・晏藝嘉三でございます。
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