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漫画の描き方のコツ備忘録vol.12【ネーム・プロット編】【話作り】④作品の主幹を確認する。

こんにちは、晏藝です。今回も、漫画の制作に役立つ情報を備忘録として、書き留めていきたいと思います。
いつも通り、漫画を描く人に向けたお話が中心のマニアックな内容ですが、制作にご興味ある方にもお付き合いいただければ幸いです。

さて【ネーム・プロット編】【話作り】の4回目は、ネーム作成方法の実践編、前回の続きからです。

前回の三回目「ネームの初稿の完成」まで。
さらに「その先のいくつかの工程がお話作りにおいて非常に大事な手順です」というお話をいたしました。

今回は引き続き、その大事な工程とは?と、その実際の作業のやり方についてを、詳しくご説明していきたいと思います。

まずは、後引き用の目次です。



◇大切なのは《客観視》する事。

最初から、さくっと結論を言えば、その大事な工程とは、

「自分の漫画を出来る限り客観視する!」

という作業です。

一人で作った生まれたてのネームの初稿やプロットは、例えれば、
〈真夜中に一人で書いたラブレター…〉
に近いものも多くあります。

これはつまり、

〈自分の主観的な気持ちを、
誰かに読んでもらう。という意識をせずに、
一方的に綴ったもの〉

に近いという意味です。

そんな作品も悪いものではないかと思いますが、なるべく多くの人に忌避されずに、自作品を読まれる確率を上げたい場合には、
この段階で自分の描いたものが、いまだその状態であれば、

「他人に読ませる事を前提とした形に整える」

必要があります。

つまり、その作品を読む方に対して、
作品のテーマや、作者の描きたいもの・その面白さを、より伝わりやすくするため、
「自分の気持ちだけを綴った手紙」から、
「気持ちを相手に伝えるための手紙」への清書を行います。

これは、
《自分の漫画を、出来る限り客観視》
して、
《伝えたい事や表現を、明確に、分かりやすくする》という作業であり、

「描き手の視点のみ」で作った初稿を、
「読み手の視点」で確認して、読みにくい部分を適宜、修正していくという作業です。

前回お話した、編集さんに見せると改善する場合がありますというのは、
「自分の作品に対して、自分と近い視点かつ、客観的な視点(納得できる改善案)を持っている(もしくはその提案が出来る技術がある)」
=「相性の良い」

編集さんに付いてもらえると、

《自分で自分の作品を客観視(自分が読者の目線で観察)した時の視点》で、効率良い作品の改善も見込めるためです。

自分のみでの客観視も可能ですが、それはやはり少し時間を置いた方がやりやすくもあります。人によってはそれが一週間、一月以上経ってやっと客観的に見えるという事もあります。

そのため、編集さんにお願いした場合、作者のみより早くフィードバックがされる事が多いです。
また、担当の方の腕や、相性・自身の客観視の得手不得手によっては、自分で行うよりも断然その精度が高い場合もあります。

もちろん、著しく相性が悪いとか、互いに忙殺されているとか、客観視以上の直すべきかも物議…な創作の根幹部分への踏み込え・クリエイターの仕事域への踏み込えが重度にある、などの場合には、時々SNS等で見かけるような大惨事も起きないとは言い難いです。

また、どちらにしても編集さんと組まない場合や組めない投稿時、信頼して見せられる方がいないような場合、作品のクオリティに自分自身だけで責任を負うような場合にも、これらは自分で行う必要があります。

ともあれ、一つの創作品として、この段階で大事なのは作品の客観視です。

そしてこれが、作品自体のクオリティにも直結します。

それでは、具体的にはどんな作業を行えば良いのか?それをここから見ていきます。


◇作品の主幹を確認しよう!

では、Let's 客観視その①です。
前回まで、初稿を仕上げた段階にここから戻ります。

誰かと会話をしている時、
話の内容が話し手の思い付くまま、あちこちに飛ぶと、聞き手は非常に聞きにくく、その内容も掴みにくいかと思います。

しかしながら、自分は相手に何を聞いて欲しくて話をしていて、どんな答えを求めているのか?どんな話をしたいのか?など、
話し手自身が、その要点を自分でしっかり把握しながら話してくれると、聞き手も、その内容を非常に掴みやすく聞きやすいかと思います。

漫画のストーリーも同じです。

まず作者である自分自身が、

・「この物語自体のあらすじは?」
・「自分が一体何を描きたくてこの作品を描いているのか?」
・「これは、誰のどんな変化や成長を感じる物語なのか?
つまり、この物語の中では登場人物の心情に、どんな変化が起きているのか?」
など、

ストーリーの背骨であり主幹である部分や、要点がどんな状態であるか?を、漫画の描き手がきちんと確認し、把握して、整えていく。

すると、読み手さんにストレスを与えにくく、伝えたい事も明確となった無駄のない作品になります。

具体的にはまずストーリーの要、以下の物語の主幹となる要素を確認します。この要素とは主に、

・【あらすじ・ストーリーライン】
・【テーマ】
・【心情変化】

の三つです。
では、それぞれの確認方法の例を見ていきます。


①あらすじ(5H1W)の確認

「話の筋は簡潔で分かりやすく、不要なエピソードなどはないか?」

まずは、初稿のあらすじ=5H1Wの確認を行います。
ここでは、なるべく一行で簡潔に、作品の内容を説明します。

これは、
【いつ、誰が、どこで、なぜ、
何を、どのように、
どうする。
物語である。

と説明が出来るでしょうか。

5H1Wに足りない要素がないか?
反対に「いつ、誰が、誰が、どこで、」などと、その物語を描くには不必要に要素がダブったりしていないか?などを確認します。

また、当初描こうと思っていたものと、着地点がずれてしまっていないでしょうか?
ずれた結果、そちらの方が面白い場合には、それに合わせた話に変え、そのエピソードやキャラクターに過不足がないかを検討します。

②テーマ

「描きたい物語は、作品のテーマに沿ったものとなっているか?」

さらにここでもう一度、自分の作品を読んで、作品のテーマを読み取り、確認します。
読み手に何を見せたいのか?
どう感じてほしいのか?
何を描きたいのか?自分は何を伝えたいのか?
など、

読者が感動する(感情が大きく動く)ポイントは、どこにあり、それがどんなものなのか?
自分が一番伝えたい事や、物語の主題(テーマ)は何だろうか。

客観的に読んでみて、テーマが見えてきたとして、この話はそのテーマが十分に表現された物語となっているのか?
反対に、テーマがあからさまになり過ぎてはいないか?などの点も確認しておきます。
ここで必要なのは、

【自分が何を描きたくて、この作品を描いているのか】
【この作品には何が描かれているのか】

などのストーリーや創作意欲の核を、自分自身で確認する事です。

テーマってなんぞや?
例えば、手塚治虫先生の著作に、「テーマはさり気なく」という言葉があり、確かに初期の作品はさり気ない表現かと感じます
しかし、ご自身が「命の尊さ」を一貫したテーマとしていると仰ってもいて、後期の作品『ブラックジャック』『火の鳥』などは、かなりテーマを強く表現されている部分も感じます。
作品によって、作家によって、作風によって、制作時期によっても、テーマをどれだけ反映させて描くかも変わってくるようです。

漫画家の先生で、自分の作品のテーマを公けに仰ってくれる例としても珍しく、非常に分かりやすくなっていますので「テーマ」って、主題ってなんぞや?それ自体がよく分からない…という方は、「命の尊さ」をテーマとしてい描かれているんだな、という視点を持った上で上記の作品を読んでいただくと、多少つかみやすいかしらと思います。

③心情の流れ

「登場人物の心情の流れは、作家自身が把握できているか?」

あらすじとテーマに加えて、物語に合わせて変化するキャラクター、
特に主役格の人物の気持ちの流れは、読み手の感情のよりどころとなる、非常に大事な要素です。

プロットなどに合わせて横に書き出してみて、それを確認しておきます。

人物の気持ちの変化にも、起承転結やカタルシスの解消があるか?
話をうまく描こうとするあまり、キャラクターの気持ちの流れを不自然にねじ曲げて描いてしまったりはしていないか?

キャラクターの行動に、そのキャラクターのその時点の気持ちとの矛盾はないか?不自然さはないか?
さらに、自分が読み手として見た時に、キャラクターの感情や言動に、共感や納得はできるのか?
なども確認しておきます。


◇確認した3つのポイントを整える。

あらすじ・テーマ・心情の流れを確認したら、
必要に応じてもう一度、初稿のネームやプロットに手を加え、調えます。

ここまでに不要だったり、重複したエピソード・ややこしさ等があれば、削ってシンプルにしたり、もっと話がスッキリとするようなエピソードを考え置き換えたりします。

全体の流れがもたついてしまうセリフ、シーン、物語の流れとして重要度が低い何となく入れたような場面を残すなら、いっそ無くしてしまい、
クライマックスで大ゴマを取る方が、全体の完成度を高めるには良いかもしれない…というようなものも丁寧に調整していきます。

今回は不要だったエピソードも、別の作品では使える可能性がありますので、ただ無くすと思わずにストックしておくようなつもりで行うと、削りやすいです。

また、作品のテーマや伝えたい事は、山場で一番伝わるようになっているでしょうか?もしくは、読後や作中でそれとなく感じるようになっているでしょうか?

テーマや主軸を的確に表現するために、
それに沿わないような不必要なエピソードやシーンがあれば、こちらも削った方が良いです。

反対に、
見せたい感情やシーンを伝えるため、クライマックスを際立たせるためには、エピソードが弱かったり足りない場合は、
より良いものに変えたり、付け加えたり、一部が強すぎれば弱めたりする必要があります。

【あらすじ】【テーマ】【心情の変化】。

これらの三点の物語の主幹に対して、
無くても支障がない要素があれば、ここでしっかりと削ぎ落とし、

不足な部分や、もっと演出が必要な部分があれば、より良い表現に深めたり、差し替えたりします。

これらを上手に行う事で、非常に無駄のないシンプルな、読みやすい作品となります。
この備忘録で何度もお話している感じもしますが、とにかく、娯楽である以上は、読み手さんに余計なストレスをなるべく与えないように漫画を作る事は、非常に有効です。

最後に、この調整を表に書きくだしてみるとこんな感じです。
慣れない内や、大事な読み切りの作成時は、こうした簡易な表を作成して書き込み、思考を整理してみると良いかと思います。

このような地味かつ基本的な作業によって、真夜中のラブレターに客観的な視点を加えていきます。

ただ相手の好きな所を、脈絡なく思いついたまま書いた恋文より、

あなたとこんな風に出会い、以前にあなたとこんな事があったために、そのどういった部分にどれだけ自分は感激し、
さらにあなたの、こんな所やあんな所がとても素敵だと日ごろから思っていて、だからこそ好いているわけです。ゆえに、私はあなたが生まれてくれた事に心から感謝をしています。
などと、自分の本当の気持ちをしっかりと確認して、肝心な事を伝えるために余計な記述は省き、それをもれなく相手に伝えようという意思のある手紙の方が、
格段に読みやすく伝わりやすく、感動を生みやすくなります。

ですが、ここで大切な事は、
前者も後者も書き手が抱いている気持ちは同じで、客観性がないかあるかの違い、また読み手の視点や、俯瞰的な視点からそれを見られて反映できたかが、手紙の完成形に大きな違いを生みだしているに過ぎません。

これが、客観視によって作品のクオリティが変わるカラクリで、
よくブラッシュアップとか、もう一人の自分を心の中に飼うとか、子供の頃の自分にOKをもらうなどとも言われる作業の一つです。
なかなか難しい部分ではありますが、繰り返し行っていくと初稿ネームを書きながら、ブラッシュアップを平行して行えるようになったりもします。

とはいえ、スランプになると、慣れていてもうまく出来なくなったりも当然しますのでご安心ください。
私自身もしょっちゅう「この作品これで良いんかな…」と闇落ちしています。HAHAHA…

とにかく、少しでも読み手視点で作品を観察しようという気持ちが非常に大事で、これらの一見地味なアクションでも確実に完成作品の出来に反映されますので、やってみたことないなあ~という方はぜひ一度、お試しいただくのがオススメです。

という所で、今回は終了しつつ、次回に続きます。
次回は引き続き、ネーム制作の実践編です。
今回の工程で、ネームの初稿が完成しました。次は、この客観性を意識したまま、ネームを構成して完成させていく段階となります。

ここまで、お読みいただき有難うございました!よろしければ次回もお付き合いくださいませ。




以下宣伝につき

宣伝が面倒でサボっておりましたが、もう良い大人だしやらねばと思い、時々やります。
中の人の作品にも興味あるかもというお優しい方はお付き合いください。

よくわからん謎人が描き方をワソワソ出してても申し訳ないので、漫画描きのポートフォリオサイト・マンガノさん内の作者マンガフォリオを自己紹介に貼っておきます。
作品の紹介や購入リンクなどです。
無料で出せている作品は、現在少ないのですんませんなんですが、最後のメインページ内には、一部試し読みリンクなどもありますのでよろしければ。

当方、広域ストア様にて電子書籍発行している元紙商業漫画家・現デジタル自由漫画描き・晏藝嘉三あきよしみでございます。
発行・写植などは株式会社コンパス様に、作品制作全般は晏藝個人でおこなっています。
現在進行中の作品は『神垣は緋』『物見の文士』の二つ。

・『神垣は緋』は、
単話連載方式でWEB発行のみ、episode1進行中の現代もののアクションダークファンタジー作品です。現在、4話まで発行中、5話執筆中です。(6か7話でepisode1完結予定。)
来年には『神垣は緋』のepisode1を完結次第、下記『物見の文士』の読み切り発行準備をしたい…予定です。

・『物見の文士』は、
文士ものの怪奇幻想譚です。明治初期が舞台。
かつて私が紙だった頃に描いていたシリーズのリメイク版などです。一話読み切り方式です。
現在、『狸囃子が聴こえる』『柳暗花明』『嘘吐き(※猫鬼の死にぞこない 収録)』がデジタル化・発行済みです。
こちらは、なかなか新刊出せず面目ないの極みです。

・作者のポートフォリオサイトのメインページ

紙商業時代に執筆しデジタル発行中の、一巻完結の『ミケ』『猫鬼の死にぞこない』は、待てば¥0系アプリなどでも一部のみ読めますのでよろしければご探索ください。
両作品とも、猫もの雑誌で行っていた不定期連載です。

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