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【ショートショート】空は天の川、地上は蛇の道

作者別に陳列された大型書店の書棚。
「あ」から「わ」までのつづら折りの導線をわたしは「さ」から人差し指でなぞりながらとある作家の本を探す。

ない。

僅少な本ではないはずだが。
むしろその作家の代名詞でもあるはずだ。
置いてないなんて考えられない。
私は「こ」まで遡り人差し指でなぞりながらまた二度目の「さ」を通過し、そして「た」まで粘る。

やはり、ない。
ないものはない。

そもそも信じてないのだ。
わたしはやっぱり信じられないのだ。

客が(誰でもいい誰かが)手にとって戻す時、元の場所に収めない。
今回もきっとそうだ。
そうに違いない。
人を信じられないことを信じている。
疑っているから範囲を広げる。

そして結局見つけられないで店員に尋ねる。

売り切れですね、お取り寄せしましょうか。

意地になる。
悔しくなる。
それで諦めきれず

結構です、自分で探しますからと
遠く離れた書店へ向かう。

日が沈むと引き換えに
車のエンプティランプが点る。

信じてない。
わたしはエンプティランプを信じてない。
まだいける。
対向車線のガソリンスタンドを通りすぎる。
神経を消耗してまで右折などしたくない。
まだいける。
まだ
いけ
る…

そしてわたしはJAFを呼ぶ。
街灯もない山奥でよくここまで来られたなと外へ出て腕を組む。

明日からはもう少し人を信じよう。
厚い雲に覆われた夜空に天の川は見えない。
年に一度会えると信じてる織姫と彦星。
今年は残念だったな。
それでも二人はまた一年待つのだな。
信じて待つのだな。

年に一度だけ(キラリキラキララ)
天の川渡り(キラリキラキララ)
キラリキララー
夜空に輝く

真っ暗闇の蛇の道でわたしは声が裏返りながらもメゾソプラノで歌う。

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