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【詩小説】主人公だった

いつからだろう

人差し指に神経を集中させれば
紅の炎を灯せると信じてたのに
構えることすらしなくなったのは

たしかにそんな日はあった

ダイヤモンド型の指輪キャンディーの
色とりどりの人工着色料を
蛍光灯や窓からの日射しに翳して
魔法の石だとか
精霊が現れることを期待して
よだれと飴で手を汚していた

電波妨害の黄砂の嵐の向こう側

消しゴム人形をこつこつ集めて
動くパーツもないのに
効果音を恥ずかしげもなく声にした
友人と毎回違う物語を
即興で繰り広げていた

自意識もないエチュードだった

まるで台本いらずの役者のように

見えないものが
まるで見えていた

大人は学校に行かなくて羨ましい
勉強しなくてずるい
だなんて

週6勤の半ズボンの正社員がぼやく

自転車さえあれば
どこへでも
それくらいの世界
時間なんて関係なかった
遠くても
天気が荒れていても

若いねー
まだ10代?
若いねー、若いねー、………

どこへいってもわたしたちは若かった
大人たちはよく嘘をつき
ごまかすことは知っていた
でもその羨望の言葉は本物だった
だから浴びせられて快感だった

いつまでも通用する呪文ではない

限ってわたしは例外だった
なんていうのは都合のいい話だった

ずっと若いままだと思っていたのだから
そんなわけ
ないのに

でも
大人になんて
ずっと
ずっと
永遠に近い
遠い未来の
他人事だと思ってた
そんなわけ
ないのに

若いねー

言う側になっていた

同級生が人の親になっていた

あの頃の親の歳を追い抜いていた

ともだちは
みんな
どこいった

もう
わたしは

見えたとしても
見えたと
言えない

いつからだろう

こんな文章を書くようになったのは

わたしは間違いなく
物語の主人公だった
どんな場面でも
無理やりでも
主人公だった

でも
今は
もう
物語の主人公を
書くことしか
できなくなっていた

きっと
あなたも
わたしも
みんな
みんな
主人公だった




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