【エッセイ】それは質問なのか尋問なのか

十年以上放置したまま結局紛失した銀行の通帳とカードをどうにかする為窓口へ行った。
十数年前、ATMで端数を残して引き出したのがその銀行との最後の関係だった(情事か)。


相性というか、なぜかその銀行に見切りをつけておさらばしたのだが、これからの仕事で使い分ける為の口座をもう一つ持っていてもいいかなと思いかつての口座を復活させるべく手続きしに訪ねたわけだが、復活ではなく新規で作り直す形になった。

十年以上放置していたら失効になるのはなんとなくだが知っていた。
その場合、まず紛失届けを提出し、端数のまま十数年眠っていた預金(90円ちょっと)を払い出してもらい、新規口座の開設手続き申請……エトセトラ……。
行員の方にも自分にも面倒極まりない多くの手順を踏まねばならなかった。

1円に笑う者は1円に泣く。
その教えが身についているので紛失届けを出さないと90円ちょっとでもこちらに戻ってこないというから出さないわけにはいかない。
出さないと国のお金になりますがよろしいですか?と尋ねられたから尚更ひけなかった。

その手続きの中で用紙にどういう理由で今回口座を作るのかという項目があり、行員の方もそれを読み上げて直接こちらに尋ねてきた(親切心から?)。どういうって……。ねぇ?

まぁ、仕事で使いたくて…と、しどろもどろ答えたのがまずかったのか、ところで何をされてる方なんですか?と、アッコさんのものまねをするミスターシャチホコさんかよとつっこみたくなる質問をされた。

この何を生業にしているのか問題に毎度頭を悩ます。

自営ですか?と、誘導されるが何だかしっくりこなくてどもってしまう。

…フ、フリーランス?
…も、物書き?
…ラ、ライター的な?
思い浮かぶ単語を並べていく。(詩の一文字も出ない。出せない)

作家なんて仰々しいし、漠然としてもいる。
こういう時会社員だったりこれです!という社会的に多数で通用しやすい職業は気が楽だなと感じる。だから用紙の項目で一番始めに鎮座しているのだな。

なんだかわちゃわちゃしていたが、この時のやり取りはまるで「ダウンタウンのごっつええ感じ」というバラエティ番組のキャシー塚本のコントのようだった。
瞬時にそれがよぎったのでその場で笑ってしまいそうになったが我慢した。頑張って堪えた。そこで笑ってしまったらいよいよヤバい奴だと思われる。

ちなみにキャシー塚本のコントというのは、ダウンタウンの松ちゃん扮する架空の料理学校の先生が料理番組の講師としてやって来てやりたい放題やって去っていくというもので、その時によぎった回がポルトガルの家庭料理を作る回だった。

キャシーが「おめでたい席で作る料理なの」と言っておきながら「おめでたいってわけでもないわ」と時間差で否定し、またしばらく考えてから「おめでたい席ね」とまた訂正するを繰り返すのだ。「家庭料理ね」「家庭料理ってわけでもないか」「まぁ、家庭料理ね」……そんなことの繰り返しがとにかく可笑しいのだ。
それを思い出してしまったもんだからもう土壺にはまってしまった。

行員の方も「どんなものを書いてるんですか?」なんて聞いてくる。(銀行って結構ぐいぐい首を突っ込んでくる)
「小説ですか?」と続けて聞いてくる。
「いや、小説ってわけじゃないんですけど…」
「現地を訪ねて旅行記とかですか?」
「う〜ん、現地にも…行かないですかね〜」
「え〜、何だろう〜」(どうしても知りたいのね)
じれったさと恥ずかしさと後ろで待っている番号札たちのプレッシャーから解放されたくてふり絞ってふり絞って出た私の着地点は
「まぁ、エッセイ的な?いや、エッセイってわけでもないか……まぁぁぁ……、エッセイですかね。とにかくなんでもご依頼があれば……」(キャシーがのりうつった)
「わぁ〜、すごいですね〜」と、行員の女性は手で口を隠しながらときめきに似た驚きのリアクションをした。(マスクを手で隠す異様な光景)

こんなやり取りが続いた。
正直、何でこんなに食いつくの?
困ってしまった。銀行の人はそれを知る必要があるということなのか…仕事なのか…
それにしても言い方は悪いが、しつこい。

すごくなんかないんです。
そんな(どんな想像されてるか知らないけど)すごいもんじゃないんです。

なんだか今の自分の現実と答えている内容の差に途方もなく虚しく情けなくなっていく。



そんなに聞かないでくれよ…行員さん。
去年の収入もとどめに聞かれた…。

ここで四万十川料理学校のキャシー塚本先生ならこねくりまわしたジャンボ餃子の生地をボーーン!!と投げつけるんだが、こちらはそういうわけにもいかない。(投げるものもない)
キャシーの捨て台詞で「もう二度と来ないわよ!」があったのだがそれも心の中で叫んでいた。

あの行員は私に質問していたのか、それとも怪しんで尋問していたのか…
う〜ん…わからない(岡本太郎)

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