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【エッセイ】浅い眠りで飛べない蝶

とある理由で眠りが浅かった時にみた夢はショッピングモールの吹き抜けのレストコーナーに座っていた私を呼ぶ懐かしい声の主を辺りを見回して探す場面だった。
二階の緩いアーチの通路で手すりに前のめりに体重をかけている四、五人の見慣れた顔ぶれ。

中学生の同級生たちだった。

みんなあの時のままの顔で、私の無意識で勝手な大人修正されていない思春期のあどけなさと芽生えはじめた精悍さも併せ持った青臭いままの顔が並んでいた。
かっこつけなあいつは口元だけ微笑み私をじっと見つめていた。
ムードメーカーのあいつは大きく手を振っていた。
男子に混ざって下ネタにも動じずにノリのいいツッコミを入れていた姉御肌のあの娘が愛想よく少ししおらしく寄り添っていた。

振り返って彼らに気を取られていた背後から私の名前を呼ぶ声に体勢を戻すとまた中学生の頃の女子たちが三、四人でかたまっていた。
SPEEDが流行っていた時代のファッションでガラケーに九尾の狐の尻尾のように幾つも付けたストラップがユサユサ揺れていた。

一人ひとりの名前が咄嗟に出なかったが私は瞬時にあの時の中学生に戻れていた。

彼らに触れることもなく、ただそれだけでその夢は終わった。


また私の心のタエ子が現れたのかもしれない。
「おもひでぽろぽろ」の主人公、タエ子。
今度は中学生の私を連れてきたようだ。
私は彼らに会いたいのかもしれない。
会って触れて話したいのかもしれない。

それはYMOの「ライディーン」を無意識に意識していたからなのかもしれない。
タエ子のさなぎから蝶になる前夜。
これからも何度かその波はやってくるとわかっていた。
さなぎは羽化してもう飛べるはずなのに。
中学生の私はときめきも明るい未来も日々新鮮な後ろめたさと罪悪感を体いっぱいに受け止めてきた。
戻りたいとは思わないが懐かしく振り向きたい。

浅い眠りは次の日体にこたえるが何か私に伝えたかったのかと思うと一点を眺めてしまう。

もう戻れない。
みんな。
どうしてるだろうか。

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