見出し画像

【コラム】仲間由紀恵のトリック

僕の中で仲間由紀恵は「TRICK」の山田奈緒子で止まっている。
熱烈で熱狂的なファンというわけではないが少しだけ歳上のきれいな女性として仲間由紀恵は常にテレビの向こうにいてくれた。
はじめに書いたが僕の仲間由紀恵像はあの独特でどこか一筋縄ではいかない堤幸彦ワールド全開のドラマ「TRICK」の主人公、山田奈緒子なのだ。
あまりにも強烈なキャラクターであった。垢抜けない地味で芋っぽいセーターやカーディガンにこたつのようなロングスカートを身にまとい風呂なしぼろアパートでさえないマジシャンという設定はあの美人からかけはなれたものであった。何もしなくてもモテるだろうにオタク気質な性格が腐れ縁でもある阿部寛演じる自称天才物理学者の上田次郎との掛け合いで露呈する。つっこみもボケもその美貌をなきものにするほどの破壊力で「貧乳」だの「巨根」だの恥じらいもなく口に出す。
が、仲間由紀恵だからまったく下品でもなく笑えてしまう。水溶き片栗粉のとろみも高濃度かつ高純度の由紀恵アミラーゼによってさらさらの清水に戻してしまう上品な存在感であった。ご存知の方も多いと思うが「TRICK」シリーズはとてつもない人気を誇り映画化も何度もされた。なんと14年も続いたのだ。
本当に本当に今回で「TRICK」終了ですよと知った時は地味に落ち込んだ。

さて、14年もの長い間、仲間由紀恵は「TRICK」だけというわけでは当然なく、他にも様々な映画やドラマにも出ている。「ごくせん」もヒットしシリーズ化された。若手男優で「ごくせん」出身というのがブランドにもなった。モノマネ番組で仲間由紀恵をするなら「TRICK」か「ごくせん」のどちらかだった(と、いっても過言ではない)。
歌手としても2006年に仲間由紀恵withダウンローズとして「恋のダウンロード」というコメディ路線(真面目だったらごめんなさい)でミュージックステーションにも出演した。少しチャラいラッパーキャラを2人ひきつれてちょいノリでミディアムアップテンポで歌っていた。歌いきっていた。というか演じていた。しかもかなりの名曲。
それらは全て「TRICK」の14年間の間の出来事であったので僕はどの仲間由紀恵も山田奈緒子として受け止めていた。
多少シリアスなドラマに出ても「山田奈緒子」という盾か砦かが僕の仲間由紀恵像を守ってくれた。

が、「TRICK」終了と同年に元旦スペシャルもはるような国民的刑事ドラマ「相棒」にレギュラー出演することになった。
それが僕の仲間由紀恵像に亀裂が入るはじまりだった。
それまでの山田奈緒子というフィルターが完璧にとっぱわれてしまったことがここまで仲間由紀恵を解き放ってしまうとは。
「相棒」に出だした2014年、まだ仲間由紀恵は34か35歳なのだ。もう、なのか。まだ、なのか。わかれるところだろうが個人的には「まだ」であった。
それでもみせる側は大人の仲間由紀恵を用意してきた。山田奈緒子からの脱皮!なんて大袈裟かもしれないが全く意図してなかったとはいえないと思う。この大人というのが極端にいえば松坂慶子的な大人だったのだ。黒が似合ってショールなんか肩にかけたりなんかする「オトナ」な女にある日突然路線を切り替えられた気がした。要するにキャラ変である。
それでも世間的に35歳はもう大人の女性なのだ。
それは理解せねばならない。
が、仲間由紀恵はもともと大人っぽい顔だったし黒髪ロングは井森美幸ばりに変わらないヘアースタイルとして20年近く在り続けたのだ。
思えば仲間由紀恵は「TRICK」の山田奈緒子の為にある程度髪の長さも変えられずにきたのかもしれない。そんな誓約があったのかはしらないがプリンセス天功がアメリカとの契約で髪の長さの数センチか数ミリ単位で契約書をかわしたと何かで言ってたことを覚えている。
「相棒」の仲間由紀恵はとにかく感情をみせない。知的すぎて人間味がない。ミステリアスを頑なに守るために弱みなどみせない。冗談も通じなければ言うこともない。ようなキャラクターなのだ。多少回を重ねるごとに変化はあったが。
浦島太郎になった気分で一気にクールな仲間由紀恵をカウンターから「へい、お待ち」と言わんばかりに指の浸かった丼ぶりのラーメンを出された気分だった。

仲間由紀恵は少しヘロヘロになりながら追いつめられて無理矢理ひっくり返すくらいの無茶をする喜劇役者でいてほしい。それが仲間由紀恵のはず…だと思いたかっただけなのかもしれない。

どこからか漏れてくる「松坂慶子」っぽさ。
仲間由紀恵は松坂慶子になりたいのだろうか。
いつか一周して大地真央のように突然歌い出す女将になる日がくるか…来てほしいと願っているのは僕だけだろうか。

ちなみに「TRICK」ではじめて仲間由紀恵を認識したのだがそれ以前に観ていた映画「ガメラ」で怪獣に生気を吸い取られて変わり果てた姿になったカップルのかたわれが仲間由紀恵だったと知った時の衝撃も忘れない。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?