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「檸檬先生」珠川こおり著 読みました

 ラストは冒頭で示されている、とてもつらい「真っ赤」な話なのだ。バッドエンドが確約されているのに読むのがやめられないのは、少年が持つ共感覚という色彩溢れる世界があまりにも新しい読書体験だったからだ。超新星爆発。
 混沌とした居心地の悪さも、檸檬先生と出会ってからの、時おり訪れる心地良い時間も。微妙な関係の二人がお互いに抱く曖昧な感情までも。文字だけでこんなに色や音を感じることが出来るんだなと。いやそれだけではない、肌に触れる感触や空気の温湿度、食べ物が口に入った感覚などなど、この本読んでる間だけ、ぜんぶの感覚が敏感になる。すごくびっくりしている。美しいけれど強さもある言葉の礫で、小気味良く脳みそがノックされる。
 檸檬先生の素性、それから少年との意外な接点が最後に明かされた。ラストの赤色が衝撃すぎて忘れがちなんだけど、その接点は偶然だったのだろうか? 少年が浮上するきっかけになるあの出来事に、檸檬先生は一枚かんでいたのだろうか。気になるところではある。
 それに少年と檸檬先生の会話の軽快さ。二人の楽しそうなやり取りが好きだ。そしてこれがまた後から後からじわじわと効いてくる。
 珠川こおりの本はもどかしい。なかなか核心に触れてくれない。上手いこといってくれない。……本音をさらけ出してくれない。言っちゃえよ、はっきりと。でも言えないのが人間なんだ。それですれ違うのは悲しすぎる。それなのに何か些細なことをきっかけにして、突然霧が晴れるような爽快さが、あると見せかけて。そんな単純ではない。
 先に読んだ同じ作者の「マーブル」よりずっと重厚なように思いました。感動します。
 なんとなく、かつて瀬尾まいこを立て続けに読んだときみたいな、基本は読みやすいんだけどヒリヒリした味付けに唸らせられるぜ!みたいな感じがしてきました。

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