【読書録】異人館画廊(谷瑞恵)
『異人館画廊』シリーズについて書きます。
本当は一作一作について書きたいくらい大好きな作品なのだけど、さすがに書いている時間がないので、読み終えている3作目までまとめて記録。若干ネタバレを挟むので、苦手な方はご遠慮ください。
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作者の谷瑞恵先生は、コバルト文庫で少女小説を書かれていたこともある小説家。近年、初の大衆向け作品『思い出のとき修理します』で広く世間に知られるようになりました。
中学生の頃、私は谷瑞恵先生の作品の愛読者でした。
特に『魔女の結婚』シリーズが大好きで、区営図書館で借りて、学校の「朝読書」でコツコツと読み進めていました(先生には「もっと文学作品を読みなさい!」と叱られていたけど……)。
当時から10年以上経っているので、内容はうろ覚えなのですが、今でも「エレイン」や「マティアス」、「流星車輪」というワードを聞くと、ときめきを隠しきれません。
『異人館画廊』は、「谷先生の本か~。子どものときから読んでないかも。久しぶりに読んでみようかな」という感じで軽く手に取ちました。でも、読み始めたら止まらなくなるくらい、とっても面白かったです。
(中学生の時もそうだったけど、『魔女の結婚』シリーズ12作+短編集2作の長大作を読み切ることができたのは、完成された世界観と、魅力的なキャラクターたちのお陰だったと思います)
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『異人館画廊』はタイトルでもお察しのように、「美術」とりわけ「絵画」がテーマになっています。
主人公・千景は、英国で“図像学”を学んだ研究者。祖父の死を機に日本へ帰国します。ひょんなことから、若くして「西宮画廊」を経営する幼馴染・透磨を筆頭とした「Cube」の一員に加わり、絵画にまつわる様々な事件を解決していくようになっていき……。という物語です(ざっくり)。
コバルト時代から変わらず、可愛いイラストが表紙だったので、ライトノベル感覚で読めるだろうと思っていました。でも、想像していたよりも、かなり内容がボリューミー。というのも、図像術であったり、実在の絵画・画家のことであったり、神話や世界史(特に美術史)について掘り下げて描かれていたからです。どの作品も、実在する画家・実在する絵画を取り上げているので、テーマにするものをしっかりと学ばれて作品を作られているのだと感じました(確かに『魔女の結婚』でも、神話や世界史の知識をふんだんに使ってストーリーを展開させていたような気がします)。
知識に裏づけされた世界観は、物語を進める上でかなり重要な説得力を発揮するのではないでしょうか。
次々とページをめくりたくなる仕掛けは、魅力的な登場人物にも隠されています。
ロリータファッションを着こなす瑠衣は、千景のお姉さん的存在。劇団員である彼女は、その演技力でどんな人にも変装し、敵地に潜入していきます。事件解決には欠かせない存在です。
上下アニマル柄の派手な装いをした自称・占い師の彰は、調べあげた“事実”を占いで予知したように話し、重要人物の懐に飛び込んでいきます。透磨に千景との関係のアドバイスもしてくれる。瑠衣さんと彰くんは、千景と透磨の緩衝材でもあります。
そして「Cube」のブレーン的存在カゲロウ。美術品の情報屋として、千景たちに様々な情報を与えてくれるのですが、いつもインターネットの向こう側にいるため、決して姿を現しません。3作目でもまだその正体は謎に包まれたまま。彼の正体が気になる所です。
千景のまたいとこの京一はお調子者で、常に冷静沈着な透磨とは正反対。「Cube」のメンバーではないけれど、密かに千景に思いを寄せているので、透磨とは常に痴話ゲンカが耐えません。もちろん、この三角関係も見所のひとつ!
登場人物みんなが魅力的なのですが、やっぱり1番好きなのは千景と透磨。
幼馴染の二人ですが、幼い頃に巻き込まれた「ある事件」のせいで、千景にはあまり透磨の記憶がありません。お互い頑固で意地っ張り。口も悪いし、気も合いません。会えばケンカばかりなのですが、お互いがお互いのことを気になってしょうがないご様子。
透磨は、尊敬する千景の祖父・統治郎から、「千景のことを頼む」と言われているのですが、一方の千景は「冗談じゃない!」といった感じ。透磨はまんざらでもないようですが……。
しかし、事件を解決するために勝手に行動する千景が、一人ピンチに陥れば、助けに来てくれるのは必ず透磨。
そんな二人がケンカをしたり、すれ違ったりしながら距離を縮めていく姿はキュンとせずにはいられない! ケンカップル好きにはたまりません!!
『魔女の結婚』もそうでしたが、谷先生は本当にケンカップルの描き方が上手。千景と透磨のコミカルな掛け合いから、急にドキっとさせるシーンまで、ときめきポイントは随所にちりばめられています。
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私にとって、『異人館画廊』は次回作の発売が待ち遠しいシリーズのひとつ。
千景のトラウマとなっている過去の事件。瑠衣、彰、カゲロウのバックグラウンドも気になるし。もちろん千景と透磨の微妙な距離感が、今後どうなるかも楽しみ。
勃発する事件も、一筋縄ではいかない難事件ばかり。いつも犯人予想が外れてしまうのですが、意外な人物が犯人だったという展開はやっぱり面白いです。
美術系の知識がなくても楽しく読むことができる作品になっているので、ライトノベルに抵抗のない方はぜひ、ご一読いただければと思います。
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