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雑居ビルを眺めながら 10

海辺の街で大きな雑居ビルは見当たらなかった。おそらく自分が見落としていただけなのだが、商店街は生活の匂いと隣り合わせで、都会で見るような殺伐さは感じられない。寂しさはあっても違う種類のように思う。人が無関心に同居する都会の寂しさとは違って、人がいない寂しさ。それがふとした隙間に紛れ込んでいる。通りを歩いていても、人の声が途切れた瞬間にそれを感じる。小さな雑居ビルらしきビルはあるのだが、ただの観光者にとってはそこに入るだけの勇気がない。普段思っているのとは違う、アパートのような構えのものもある。メイン通りから離れればすぐ住宅地が広がるこの街にも、ほかに多くの雑居ビルは存在するだろう。


とはいえ、この街を訪れるのは初めてではない。駅前通りは以前と変わらないように見えるが、この街が大きな変化の中にあることは海沿いへ近づくほど感じることが出来る。新しい街が作られていくということ、コンクリートの防波堤が作られ、海が隔てられていくこと。


古いビルが解体され、新しいビルが建つのとは違う。

更地になってそこに何が在ったか忘れてしまうのとは違う。


新しさの尺度が全く違う。海辺の街で、新しさは生活や土地から離れることを意味しない。そのことに目を見張る。


この街の雑居ビルはきっと違う在り方をしているだろう。それはもっと街を知らなければ見えない。通りすがりの目には、まだ海を焼き付けるだけで。


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