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ジェンダーレス化とメンズコスメ

メンズコスメは1,200億円市場に

メンズコスメが急速に普及してきています。
ある調査会社の調べでは、2020年度は1,200億を超えて過去最高となる見込みで、右肩上がりの傾向はまだまだ続くと見られています。

今では「男が化粧するのはおかしい」とする風潮はかなり弱まっていますが、若年層になるほどメンズコスメへの抵抗感は弱いことから、この先もマーケットが拡大していくことは間違いないでしょう。

実際に多くの化粧品メーカーでは、メンズ専門のブランドを展開したり、ネット通販に力を入れたりしています。高齢化の進展によってコスメ市場自体が伸び悩んでいますから、業界にとってはある意味ブルーオーシャンといえるのかもしれません。

ここにきてメンズコスメが飛躍的に成長している理由としては、以下のような背景があると思います。


1.人生100年時代における男性意識の変化

男性自身の価値観や美意識は、時代によって大きく変遷します。
かつてはひと(自分自身)よりもの(対象物や対価)に関心を持ち、またそう振る舞うことが求められてきた男性たちが、自分自身の身体性(ファッションや広い意味でのコスメ)に関心の幅を広げつつあります。

それは文字どおり人生100年時代となり、一生を通じてのライフサイクルや社会的役割が変貌してきていることと無関係ではないでしょう。

男性社会ワントーンの職場において人生のほとんどを過ごす時代には、自らに審美的な関心を持つ動機も利益もほとんど感じられなかったわけですが、今はそんな時代ではなくなりつつあります。

一家の大黒柱として生活の糧を稼ぎ出すことだけに専念するにしては、100歳までの人生は長すぎるのです。


2.ジェンダーレス化やLGBTの影響

平成の後半あたりから、日本でもジェンダーレス化の潮流が顕在化してきています。

テレビドラマでも異性装をして生活する主人公が悩みを抱えつつイキイキと活躍し、ドキュメンタリーなどでも男と女の垣根が変わるジェンダーレスの時代を投影したリアルな特集が脚光を浴びたりしました。

そしてさまざまなメディアではかなり広範にLGBTのテーマが取り上げらえるようになり、身近な街のシンポジウムなどでも日常的に前向きな議論が行われるなど、良い意味で「他人ごと」ではなくなる時代となりました。

芸能界で活躍する女装や男装をしたタレントが文字どおり異色なタレント(才能)として受けとめられていた時代とは異なり、社会で生活する誰もが多様性を持ちうるという認識が広まりつつあります。

その意味で、男らしさ=化粧をしてはいけないという従来の定式は、じわじわととはいえ確実に根底が揺らいできているといえるでしょう。



3.未婚化・晩婚化による恋愛観の変化

国勢調査の結果に基づく生涯未婚率は、男性が23.37%、女性が14.06%(2019年)とされています。この傾向は都市部になるほど高くなり、東京都では、男性26.06%、女性19.20%という数字になります。

晩婚化については、2019年のデータでは、夫の平均初婚年齢は31.2歳であり、妻の平均初婚年齢は29.6歳であり、全体として未婚化と同じような傾向が見られます。

4人に1人あるいは5人に1人が生涯未婚であり、平均して30歳を超えて初婚を迎える社会では、その背景として当然ながら恋愛観も変化していると考えられます。

男性には一生の稼得能力を担う力強さが期待され、女性には内助の功として家庭生活全般を支える忍耐力が求められるという時代の恋愛観とは、明らかに風景が一変しています。

ジェンダーレスなオシャレ男子がモテる時代。
そう表現する人もいますが、男性に一面的な力強さを求めるのではなく、親和性や柔軟性を期待する女性が間違いなく増えてきているといえるかもしれません。


4.ビジュアル系男子のリニューアル化

奇抜なファッションに身を包んで派手な髪型にセットするだけでなく、遠目からも映えるマスカラやアイシャドーにもこだわったフルメイクを施す。

こんなビジュアル系男子はいつの時代にもいたものですが、それは大学生や美容業界といった特殊な職業に身を置く若者に限定したことであり、多くは20代になって社会人として活躍する頃には身を潜めていたものです。

ところが今はこんなビジュアル系男子が、部分的とはいえリニューアル化される兆候が見られるといいます。

メンズ向けコスメやサロンなどの普及によって男性が化粧に挑戦できる機会は急速に広まりつつありますが、「鬼滅の刃」の記録的ヒットや社会現象化も手伝って、コスプレへの抵抗感は世代を超えて弱まる傾向があるといえます。

コロナ禍においても2020年のハロウィンには室内を中心にコスプレを楽しむ人が全国に広がりましたが、その中にはビジュアル系男子の再来ともいえる姿も少なくなかったといいます。

コスプレした芸能人が人気ランキングに名を連ねる現象もしばらくは続きそうな時流であることから、このような傾向はさらに派生していく可能性もあるといえるでしょう。


5.コロナ禍における「中年男子」の変化

2020年のコロナ禍によって、私たちのライフスタイルはそれまでとは一変しました。三密を避けてできるだけ移動や人との接触の機会を減らし、テレワークやリモートワークが推奨される働き方・暮らし方においては、私たちの行動や規範だけでなく、意識や感性も少なからぬ影響を受けたといえるでしょう。

テレワークやリモートワークで毎日スーツを着て出社することがなくなり、日常的にカジュアルを着て在宅することが増えたことで、今までは考えたこともなかったドレスコードについて疑問を持ったり、あらためて自分らしさと向き合う機会ができたという人も少なくありません。

そんな中、メンズコスメの魅力に駆られる人たちの年齢層は、意外にも20代の若者に偏っているわけではなく、40代以降の中年層が多いのだといいます。

外部環境によって今までの働き方が変化したとき、より真剣に反応する層の多くは、従来のキャリアと向き合い自分自身を見つめなおす動機があり、それ相応に経済的・社会的な余裕があり、そして肌年齢の衰えを感じ始める40代以降なのかもしれません。

人生の折り返し地点近くにいるこの世代が、どのようにコスメや女性的なアイテムと向き合っていくかは、これからの社会の潮流を占うヒントになるかもしれません。



学生時代に初めて時事についてコラムを書き、現在のジェンダー、男らしさ・女らしさ、ファッションなどのテーマについて、キャリア、法律、社会、文化、歴史などの視点から、週一ペースで気軽に執筆しています。キャリコンやライターとしても活動中。よろしければサポートをお願いします。