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『ワンピースで世界を変える!』を読んで

ワンピースといえば、女性が着るもの。
こんなふうに考えている人が大半でしょう。

実際には、ワンピースのような民族衣装は世界各地に存在し、アフリカなどでは今でも男性が着用するケースがありますが、日本ではもっぱら女性のドレスコードとして認識されています。

でも、男性が「ワンピースを着たい」と思うのはおかしいのでしょうか?
幼少期から会社員時代に女性ゆえに差別された著者が、「男も女も自由に着られる服があったら」という視点から、「メンズサイズのワンピース」のブランドを立ち上げ、東大安田講堂でのファッションショーを開くまでを、自伝形式で綴っています。

服装は、たかが服装ではありません。

男性も女性も、子どもの頃から“男らしさ”や“女らしさ”を社会から求められ、“らしい”服装を身に付けることで、性別役割を担うことが当然とされています。

そもそも男女にそれほど差があるのだろうか、それぞれの性のあるべき姿を“男らしさ”“女らしさ”と規定して、その枠に押し込めることに意味があるのだろうか
自分がどんな人間であるかを知る前に、すでに存在する枠に自分をあてはめたり、あてはめられたりするうちに、いつのまにか男性は“男らしく”、女性は“女らしく”ふるまうようになってしまうんじゃないか

著者は、このように問題提起します。

私のまわりには異性装をする友人も多いですが、「最初はとても勇気がなかった」「サイズが合う洋服が少ない」「“男らしさ”に違和感がある」といった悩みを抱える人も少なくありません。

今では男性がメイクをしてワンピースを着て街に出たとしても、“異常な人”などではなく、”とりわけ都市部では好みや嗜好の問題として片づけられるでしょうが、それでもまだまだ保守的な人には受入れられる素地は乏しく、とても勇気がいることに変わりはないでしょう。

こんなドレスコードを取り巻く現実が、偏った役割意識や男女差別と根底では結びついているという指摘は、素直に頷くことができるように思います。

逆転の発想で、“服の常識”を変えてしまえば、“性別の常識”もガラッと変わるんじゃないだろうか。つまりどんな人でも、性別に限らず着たい服を着られるようになったら、服で性別を判断したりされたりすることも、他人の性別を気にすることもなくなるはずだ。そしてその先には性別にとらわれない世の中があるだろう。

たんにファッションの問題にとどまらず、リアルに悩みを抱えて生きる人や、これからの社会のあり方と対峙していく上で、とても本源的なテーマなのだと感じます。

「メンズサイズのかわいいお洋服」のブランド立ち上げに向けて、悪戦苦闘してさまざまな困難を乗り越えていく著者の歩みから、安田講堂での「ファッションポジウム」のクライマックスシーンまで読み進めたところで、ある種の爽快感を感じたのは私だけではないでしょう。

そして、リアルに綴られる起業実録でもある本書は、ファッション業界にとどまらず、脱サラや社会起業を行う人に向けた親しみやすい羅針盤としても、とても役立つ視点が多いと思います。

私の頬には、思わず涙がこぼれていた。
あの舞台で繰り広げられている光景が、当たり前になる世の中にしたい。
私のワンピースで世界を変えたい!

「ワンピースで世界を変える!」とは、あまりに大袈裟な話だと受け止める人もいると思います。

一方で、なぜ男性はワンピースを着てはいけないのか? なぜ女性は常に“女らしく”なければならないのか?

こんな疑問を抱える人も決して少なくありません。
本書の問題提起は、たしかに時代の“ひとつの扉”を開けるものであるのは間違いないように思います。

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学生時代に初めて時事についてコラムを書き、現在のジェンダー、男らしさ・女らしさ、ファッションなどのテーマについて、キャリア、法律、社会、文化、歴史などの視点から、週一ペースで気軽に執筆しています。キャリコンやライターとしても活動中。よろしければサポートをお願いします。