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【vol.2】ありがとうを伝えたくて。

救急車から降ろされ、母が心配そうに見つめる姿を横目に、病院の治療室に運ばれた。
先生が来るまでの間、看護師さんたち3名が汚れた足を拭いてくれたり、血圧や脈を測ってくれたりと慌ただしく作業をする中でも、「痛かったね〜」「寒くない?」「ビックリしたでしょう〜」と、優しく声をかけてくれた。
私は健康だけが取り柄だと言っても過言ではないほど、これまで大きな病気もなく、大きな怪我もなく、病院に行った記憶は小学校3年生が最後だ。だからこそ、病院に対しての恐怖心が強く、治療室に運ばれたときは不安と緊張と恐怖と痛さで泣きたかった。でも看護師さんたちがなんだか和やかに話をしていたり、話しかけてくれたりしたおかげで、少しずつ緊張が解けた。

そうこうしているうちに先生が来た。
すぐに傷口を見て、「砂や泥がいっぱい入っちゃってるから、麻酔を打ったあと洗浄してから縫いますね〜」と言った。私の返事の選択肢は「はい」しかないのだけど、もう聞いただけで傷口がズンッと痛む。

麻酔を3本?4本?、てか麻酔って1本じゃなかったのーーー!!?(泣)と叫ぶ余裕もないままに、膝一周麻酔を打たれた。痛すぎる麻酔のおかげで転んでからずっと感じていたジンジンという痛みは和らいだが、感覚だけはしっかりあるので、水でジャブジャブ、ブラシなのかなんなのかわからない何かでゴシゴシされているのがわかる。さすがにゴシゴシされている感覚は辛かった。痛くないはずなのに、痛い。感覚があるから、転んだ時に見てしまった傷口の残像と相まって、脳が勘違いしているに違いない。vol.1で傷のことを‘見てはいけないものを見た’と書いたけど、具体的に言ってしまえば、出ていたんです、パックリ裂けた傷口から、、、白っぽいクリーム色っぽい、ウニョウニョとした、まるで‘白子’のようなものが。そんな酷い残像がなかなか消えないから、想像力が勝手に働いてしまう。考えないように考えないように、‘無’になろうとしている最中、「ん〜、もう砂がこびりついてて取れないから、脂肪切っちゃうね〜」と、先生。ここでも私の返事の選択肢は「はい」しかないのだけど、いや、もう「はい」しかないのだから、聞かないで、先生。‘無’どころかどんどん痛すぎる図を想像してしまう。結局‘無’になれないまま、「頑張って!動かないで!」と励まされたりちょっと怒られたりしながら、地獄の治療が終わった。
傷口は横一直線に6cm、何針縫われたかは言われなかったし、聞かなかった。転んでから少し時間が経っていたこともあって、砂や泥汚れが取りきれなかったため、菌がいろんなところに散らないように膝に管を入れていると言われた。菌の心配はまだあるけど、治療が終わったことにひとまずホッとした。
先生、看護師さん、我慢弱くてすみませんでした。そして丁寧に治療をしてくださってありがとうございました。

傷を治療したにも関わらず、ベッドからうまく降りれない私を見て、先生に「怪我をしたあと自分で歩いたりした?」と聞かれた。「いいえ、転んでから一歩も歩いていません。痛くて力が入らなくて、、、」と答えると、「いちおレントゲンを撮ろうか」と、レントゲン室に運ばれた。

レントゲン撮影を終え、しばらく待ったあと、先生に呼ばれて診察室に入った。

「折れてました」

第一声、わかりやすい結果報告だった。
今まで骨折したことがないから、膝の骨折がどんなもので、これからどういう生活になって、どんな治療をして、どれくらいで治るのか、何も、本当に何もわからなかった。先生に何から質問すればいいのかわからず、ガックリと肩を落とすしかなかった。そして、先生の説明を聞きながら、痛くて重くて熱をもった動かない自分の左足をボーッと眺め、この日初めて‘無’になれた気がした。

絶望はしたものの、ここでも不幸中の幸いがあった。骨が横ではなく縦に折れていたので、手術はしなくていいと。横に折れていたら膝を動かすたびに骨が離れてしまうので即手術のようだけど、どうやら縦に折れても骨が開いたりズレてしまう可能性が少ないため、固定して自然治癒を待つだけで良いらしい。外傷は横一直線にパックリ裂けていたのに、骨は縦にポッキリ折れていたという奇跡。誰に感謝すればいいのかわからないけど、奇跡よ、ありがとう。

手術ナシということで、入院ではなく通院で治療を続けていくことになった。22日(日)に救急搬送から外傷の治療をし、膝蓋骨骨折と告げられ、23日(月)は祝日のため病院はお休み。24日(火)から通院がはじまる。
22日(日)、すべてを受け入れて病院から帰る車の中。これから仕事と通院治療の日々がはじまるのか〜、頑張らないとな〜!と、気持ちを切り替えて自分自身を奮い立たせようと必死だった。

お父さん、お母さん、心配かけてごめんなさい。一言も責めず、怒らず、ずっとそばにいてくれてありがとう。

vol.3へ続く。

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