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短歌ひとつで。

「爆発なんてさせやしないさ」信管を抜いてやる 短歌ひとつで

ばくはつなんてさせやしないさしんかんをぬいてやる たんかひとつで

亜希

いくつか躰に爆弾を抱えている。

それは、いつ、爆発するやも知れぬ爆弾たち。

がむしゃらに働いてきた。
ずっと勤め人として生きてくことを疑いもしなかった。

もちろん食べるため、生きるためであり、
自分のためというより、誰かのためが強かった。

仕事も好きだったし毎月振り込まれる額は自分が生きている価値のように思えた。

なのに仕事を辞めた。原因は群発性頭痛。

これまでも過呼吸症候群、低音障害型感音難聴と幾度かピンチに立たされてきたけど、なんとかやってきた。

群発性頭痛は今までのようになだめることのできないレベルで大波に飲まれた。
激しくて感覚も方向も見失う。

呻いた。
ソファの上だけが居場所のようになった。


昼夜を問わず襲う頭痛でほとんど眠れず、酷いと水すら吐き戻す。

何かしたくても何もできない日が続き、廃人のようになった。

何もできていないまま終わりたくなんかない。

自分の何かを対価にかえたい。

何かをしたい白い気持ちとドス黒い得体の知れないものが混りあって蠢く。

私でいられるところで生きていたいよ。

数少ないことの中からできることを考えた。
絵をスタンプにすれば、エッセイマンガが描ければ・・・ってイラストを描いた。
マンガを描いた。文章を書いた。

頭痛に気づかれないように引き金が引かれないようにと隙をみて描いていたのにあっさりと見つかってしまう。

そのうちに飛蚊症(蚊が飛んで見えるように)になり、時々、視野がデジタルに欠けるような症状が出はじめた。

眼科を受診する。

暗室でヒカリを当てた医師が言う。
「視神経が弱いですね。あなたいままで言われたことなかった?」緑内障の危険があるのだという。

医師からは、なにかあったらすぐ来るように、定期的に検査を受けるようにと言われた。

たまらなく怖くなってペンが持てなくなった。

絵が描けなくなって汗を掻き、貧血のようになって震えが頻繁に起きるようになった。

訳が分からずいくつかの病院を受診する。

原因は反応性低血糖症だった。

この病気は、ストレスや、食べものに反応して血糖値が乱降下し汗が出て身体が震えフラフラになる。

血糖値を上げられないと意識を失い、症状は突然やってくる。

外出先で意識を失わないようにバッグにブドウ糖のタブレットを持ち歩く。やれやれと思う。

元々初潮以来の月経困難症。
月経過多と痛みは、毎月悪魔の襲来のようで私は何十年も怯えて過ごしてきたところに、筋腫が見つかった。

経血の量が尋常じゃなかったからおかしいと思っていたのだが、筋腫は1年で3年分のスピードで大きくなっていたのだという。

どんだけなのよ。我ながらイヤになってしまう。

頭痛の鎮痛剤の影響で腎臓の数値が悪化しているため筋腫は、投薬で現状維持することになった。

ホルモン療法に入って月経困難症もずいぶん楽になってきたからこのまま逃げ切りたい。


これら複数個の爆弾が次から次へと投げられて、たくさん動揺しては
「なんでだよ。何度諦めたらいいんだよ」。と思いながら生きてきた。

かみさまは味方なのかそうじゃないのか変わり者なのは確かだけれど、負かされて、そのまま泣きっぱなしで終わりになんかしたくない。

そもそも納得できていないし表現することもやめたくない。

すべて私が生きてゆくために必要なことだから。

そんな風に思っていたら、
2023年、初詣で人生初の

大吉

を引いた。
そうなんだ。これからはいいことしか起きないと勝手に決める。

「ねぇ、かみさま、もうこれ以上奪わないでよ」と口をとがらせた。

その時必要な人に出会うようになり、ある人は飄々としながら

「短歌やってみたら」といってきた。

私は短歌のなんたるやもルールも知らないのに一瞬で「やるー!」と決めた。

やりたいと強く願ったらヒカリは糸となって降りてきた。

ちらばっていたピースは、はまり一枚の絵となって仕上がっていく。

織りなす世界は鮮やかに広がる。

57577・・・呪文のように指を折り数えては描くようにえんぴつを走らる。

前しか見ない。

爆発なんてさせない。
淡々と信管を抜く作業に取り掛かる。

泥臭く生きてやる。
三十一文字で生きてやる。

私は歌人を名乗った。

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