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オーパーツコミュニケーション

〇地球温暖化の影響

 地球の最高峰、エベレスト。雪や氷に覆われたこの過酷な環境に、とある変化が訪れた。地球温暖化である。北極や南極の氷のようにエベレスト周辺の雪や氷が融け始めたのだ。そして、融けた氷の下から数々の遺体が発見された。その大半は、夢破れ行方不明となった登山家のものである。だが、人知れず眠っていたものはそれだけではなかった。後に〝コイン〟と呼ばれる建造物がそこに鎮座していたのだ。

〇〝コイン〟の中身は……

 〝コイン〟は文字通り直径数百メートル、高さ数十メートルの円柱状の建造物で、表面はほのかに金色の光を放っている。打音などの非破壊検査により、中に空洞があることが分かっているが、表面にドアなどの出入り口はない。時折、中に何かが動いている事象、機械音の発生が観測されることから、国連の第一次調査隊は何らかの建造物あるいは輸送機器の可能性が高いと発表する。だが、その正体が不明なことには変わらず、人類への脅威の有無も含めて調査が続行される運びとなった。

〇〝複雑〟な場所

 〝コイン〟の調査は、NGO団体「マジェスティック・イレブン」、略称:MJ・11に移管されることになった。表向き各国の利害関係からの中立を謳っているが、実のところ政治的配慮の方が大きい。〝コイン〟がネパールと中華連邦の実行支配地区チベットの国境線近くに発見されたためだ。中華連邦は常に〝コイン〟を監視し、あわよくば〝コイン〟を奪取しようと狙っている。〝コイン〟の正体が分かろうと分かるまいと一国に独占させるのは危険な話だ。

〇調査の難航

 MJ・11は各国(アメリカ・日本・ヨーロッパ・中国など)の各分野(軍事・医学・材料工学・量子力学他)のエキスパートから選考された11人の役員が選考したメンバーから構成される学術組織である。人類の総力を挙げて〝コイン〟の全貌を掴もうとするが、一次調査以上の進展が見られない。何しろ、中に入ることが出来ないのだから。調査が暗礁に乗り上げかけた時、転機が訪れる。

〇入居?

 MJ・11の職員(雑務担当)、サラ・カシミールが、全職員の目の前で、まるで壁に吸収されるかのように〝コイン〟の中に消えたのだ。〝コイン〟の中から電話をかけるサラだが、電波は弱い。〝中〟を実況する彼女だが、その声もやがて小さくなり消えた。そして〝コイン〟は浮上を始め、巨大ロボットに変形、そのまま成層圏外へ……。

〇帰還、そしてまた……

 成層圏へ消えた瞬間、〝コイン〟は地上に、元の場所に戻った。サラもまた突然皆の前に現れた。なにやらプリント基板を手にしていた。身体に異常はないが、途中から記憶を失っていため、どこで誰から手に入れたのか全く分からないそうだ。プリント基板は地球製。製造番号からS社のものと判明。だが、その製造番号は現時点では存在しない。問い合わせによると、おそらくは来年製造される基盤のその番号が刻まれるだろう、とのこと。首を傾げる一同。そしてまた、サラと〝コイン〟が消えた。

〇MJ・11の結論

 サラは例によって記憶を失いながらも無事に帰還した。またしても記憶を失い、手に何かを持って帰って来た。今度はICチップだ。MJ・11はここで仮設を立てる。先に持ってきたプリント基板の適切な位置に適切なパーツを組み立てることにより、ある装置が完成するのではないか。その装置はプリント基板の使用例から、通信機器の可能性が高い。つまりは〝コイン〟は我々人類と接触を求めている。〝コイン〟は友好的な存在らしい。ある程度は。基板の製造番号から、そのタイムリミットは約一年と見做した。それまでの間は〝コイン〟は人類にあだなすことはないようだ。しかし、それ以上過ぎると……。どう転ぶか予測ができない。
 こうして、MJ・11は早急に完成予定の装置を予測・研究し、サラは食事中だろうが、全裸だろうが〝コイン〟の中にテレポートされるのだった。

〇秀逸なオープニング

 人気海外ドラマ「オーパーツコミュニケーション」シーズン1の総集編に新規撮影部分を加え映画化。
 グラムロックの主題歌「MJ・11」にあわせて、MJ・11の職員たちがダンスをしながら物語は始まる。やる気なく、両腕を前に出して進むだけの振り付け。正直言ってダサいのだが、サラが合流すると次第に全員の四肢がキレはじめ、シンメトリーなダンスに変わり始める。短躯な彼女だがその存在感はバツグンで、彼女が登場してダンスがそろう様は、物語当初、不協和音でギスギスしたチームの雰囲気がサラの活躍で一つにまとまる様を表している演出であろう。


2029年12月 アメリカ


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