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地獄のサブスクリプション



〇動画配信

 この動画を見てくれているみんな! マジ感謝だ。いつもありがとう! 中二ドラゴンです。このチャンネル遂に10万人突破! ようやく上級者への道のりが見えてきた。まあ。これにおごらず、常に俺は上を目指していくんで。期待してくれてちょうだい。
 今回は人気企画、『あの都市伝説の謎を解けだ。今、噂のサブスクリプションアプリ『The What!』。町中その辺をぶらついていると、スマホなんかに勝手にダウンロードされる海賊アプリ! 果たして本当にダウンロードされるのか。それってハッキングみたいなヤツなのか? 情報ではここら辺のようなごみ溜めダウンタウンだと、その確率が上がるようだ。本当かな。
ああああっ。ちょっと待って。たった今。俺のスマホにダウンロードされた! 見てみて! 映画のサブスクみたいだ。お試し期間、1か月無料とデカデカと。……おいおい。今公開中の映画があるぞ。『金属バットマン』。俺見たよ。下らないけど、意外と面白かった。画質はどうなんだろう? 映画館での隠し撮りはマズイじゃないのか。質的にもモラル的にも。しか~し、突撃系の俺としては真相を確かめなければならない。そう言っている間に登録完了。待っていろよ『金属バットマン』。

〇違法サブスク

 国家安全保障局(NSA)職員、オスカー・キャンベルとメイコ・フォースターは、その職務の性質上、国家の安全を脅かす〝存在〟に目を光らせていた。
 二人が議論しているのはサブスクリプションアプリ『The What!』。勝手に各々のスマホにAir Dropされる違法サブスクリプションアプリだ。配給元などに許可を得ず、違法に映画を配信している。中には現在劇場公開中のものが含まれる。
「こいつはどうなった?」とメイコ
「死んだ。『金属バットマン』とやらに」
「金属バットでか?」
「ああ、頭をカチ割られた」
「安易だな」
「だからB級映画なんだよ。その場が面白ければいいんだ」
「……本題は?」
 オスカーは驚愕の事実を語る。
「このアプリで映画を見ると、その映画の中に取り込まれる。見た映画の世界に入ってしまうんだ」

〇映画の世界へ

 オスカーは続ける。
「このアプリはいくつかの映画のサムネを表示させる。いわゆる〝会員登録〟をして、映画を見ようとタップするとその映画の中に入ってしまう」
「……妄想ではないのか」
「現に中二ドラゴンことスティープ・ホールの死体は〝こちらの世界〟では突如行方不明のまま。神隠しにあったように、拉致された証拠もなく、突如消えた。死体は見つかったよ。『金属バットマン』の中で。モブキャラとして中二ドラゴンの姿が映っていた。こういう映画のマニアに確認したが、『これはどのバージョンです?』。そんなシーンはないそうだ」

〇何処へ

「しかし、弱いぞ。証拠として」
「それは認めるが、我々には時間がない……。大統領が発見された。そして大統領のスマホにはこのアプリがダウンロードしていた」
「ではこれは大統領のスマホか」
 合衆国コイコイ・ハナフダ大統領は、三日前突如行方不明になった。ホワイトハウス内で。シークレットサービスの厳重な警備の中、何の痕跡もなく誘拐するのは不可能に近い。鍛え抜かれたエリート集団が奮闘しているにも関わらず、手掛かりはなく、今の所オスカーの仮説だけが唯一の可能性という体たらく。
大統領は映画の中で発見された。『エッシャーの秋』というおしゃれ映画だ。大統領が病室のベッドで寝ている。主人公の恋人が不治の病に侵されているからな」
確かにクソ映画のようだが、大統領はその映画の中ではモブキャラだろう? すぐに命の危険はないのでは?」
このアプリは、一つの映画が終わると、ランダムで他の映画の再生が始まるんだ。それとともに映画に取り込まれた人間も移動する。現に中二ドラゴンは『エッシャーの秋』の中で目撃された。……止める術はない。しかもサムネのラインナップが凄い」
『シャークマーメイド』『ゾンビエンジェル』『キリング・マスゥ~イン オリガ&カレン』『ハロウィンは13日の金曜日』『悪夢ちゃん』『空飛ぶブッチャー』『Tu・Na・Ga・Ri つながり~君は一人ではない~』……。
物騒な面子だな。その映画の中に入ってしまう可能性があるわけか。映画が終われば〝消えてしまう〟可能性もあるな。まあ『Tu・Na・Ga・Ri』にいることを期待したいところだな」
「だから急がなくてはならない。あらゆる手段を考慮して救出作戦を敢行せねば。大統領は……」品がなく、その能力も疑わしいが「簡単に死んでよい存在ではない」
「中二ドラゴンと違ってな。で、どうやって〝映画の中に侵入〟する?」

〇作戦開始へ

「エージェントたちに与えたスマホにこのアプリがダウンロードされている。作戦開始時刻に会員登録をしてもらう」
「犠牲になってもらうのか……。彼らの装備はどうする? 首尾よく大統領を見つけた場合は? 連絡方法もあるぞ」
「残念ながらそれは作戦開始しながら、検討するしかない。まずは侵入することだ」
「行き当たりばったりか……。だがそれしか方法がないようだな、局長へは?」
「今からだ。一緒に説得してほしい」二人は局長室へ向かう

〇ヤツが来た!

 阿鼻叫喚。国家安全保障局のオフィスは血まみれだった。局長も、他の職員も、警備員も……。
 全員血まみれで頭をカチ割られていた。まるで鈍器で殴られたみたいだった。
 状況を理解する間もなく、オスカーが急に倒れた。鈍い音と赤黒い血液と脳漿が辺りにぶち撒かれていた。
金属バットマン——。
さっき見たクソ映画の登場人物。空気穴一つないマスクを被って、踊るように全身をクネクネさせながら、金属バットを振り回している。
 メイコの脳裏にもう一つの仮説が頭をよぎる。映画の中に入るということは、その逆もしかり。映画のキャラクターが、金属バットマンが、こっちの世界に、私たちの現実に侵入してきた——。
 メイコの視界は突如暗転する。痛みや〝音〟よりも早く——。

2046年アメリカ 配給元:ユービックファクトリー

〇配給元からのお知らせ



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