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日曜スペシャル‼ 伝説の火星原人バーコフは実在した! 火星の割れ目ギャオに突入し辺境の地で蘇った謎の火星人と接触せよ! 今、赤煙を巻き上げ、火星の大地をローバーが駆け抜ける!



〇発端

 火星極北にある開拓候補地バーコフ。別名:最後の海。テラフォーミングが進んだ火星の地において、文字通り最後の未開の地である。地下都市建設工事のため、AI重機たちが作業を開始したが、アクシデントにより作業を中断せざるを得なかった。地下を掘り進んだ際、巨大な空洞に落ち込んで、重機たちは安全のため機能を停止したのだった。
 作業員が確認のため、その空洞に入ると驚くべき事実が目の前に広がっていた。
 死体——。それも複数。恐る恐る作業員が近づくと、その中の一つが突如起き上がり、作業員に抱き着いた。抱き着かれた作業員は、体内の水分を全て吸い取られ、チリとなって消えた。それをきっかけに他の死体も動き出す……。奇跡的に生き残った作業員が「バーコフ」とつぶやいたことから、蘇った〝死体〟の名はバーコフ、火星原人バーコフと名付けられた。
 

〇証言

 我々動画配信チャンネル「日曜スペシャル」取材班は、事の真相を確かめるべく、生存者にインタビューを試みた。Aさんは素朴な人柄で、まるで昔のアメリカ映画に出てくるような農夫のような印象を受けた。
「いや~、突然襲ってきてびっくりしただよ。全身に触手に絡まれて、オラは必至で振りほどいて何とか逃げ出しだだよ。あれはウエルズ先生が言っていたタコというより、イカだべな」
 Aさんによると、作業員の水分を吸い取った〝死体〟は急に膨らんだそうだ。そして、先に述べたイカを人型にしたような姿になったそうだ。そしてバーコフたちは空洞の奥に逃げ込んだ。空洞は思いのほか広く、まるでシェルターのようだった、とも。

〇仮説

「おそらくそれは〝乾眠〟でしょうな」生物学者のZ教授が言う。
「乾眠、ですか」聞きなれない言葉を聞いた。
「はい、乾燥などの厳しい自然環境に対応するために、生命活動を一時的に停止、無代謝状態になることです」
「冬眠のようなものですか」
「厳密には違います。冬眠の場合はわずかですが代謝はあります。が、乾眠の場合はほぼほぼ代謝がありません」
「それで生きていられるのですか?」
「これは仮説ですが、体内のブドウ糖をトレハロースという別の糖に変換しているのでしょう。地球の生物のクマムシと同じように、水分を得ると代謝を再開します。火星は乾燥しているでしょう。つい最近、我々が入植するまで、まあ今でもそうですが。この環境で生き抜くための知恵だと思いますよ」
「なるほど。バーコフは火星の原生生物であり、厳しい環境のため活動を停止していた、と」
「あくまで仮説ですよ。そのバーコフとやらは、何かしら水分をキャッチするためのセンサー、器官が備わっているのでしょう」
 被害にあった作業員、人間は体内の多くを水分で構成されている——。その〝水分〟をバーコフは狙った……。
「仮説にすぎませんがね」

〇探索へ

 取材班に戦慄が走った。火星原人バーコフが実在するのなら、地球人類が史上初めて接触する地球外生物の可能性が高い。さらに高い知能を有していれば、火星人、いわゆる異星人とコンタクトを取ったことになる。
 我々動画配信チャンネル「日曜スペシャル」取材班は調査団を派遣することを決定した。
『伝説の火星原人バーコフは実在した! 火星の割れ目ギャオに突入し、辺境の地で蘇った謎の火星人と接触せよ! 今、赤煙を巻き上げ、火星の大地をローバーが駆け抜ける!』 
 我々は柴咲徹(58・俳優)を団長に任命。柴咲徹調査団の結成である。
 

〇あ、あれは何だ?

 例の空洞を調査。空洞内の奥には、ドーム状の、おおよそ人の背丈ぐらいのオブジェが並んでいた。火星の砂を固めた、明らかに〝人〟の手を通してできた建築物だ。やはり火星原人バーコフは知的生命体に間違いない。
「あ、あれは何だ?」調査団の一人が叫ぶ。指さした方向には人影が。バーコフだ。
「走るな」団長・柴咲が叫ぶ。ヤツの触手は危険だ。作業員がどうなったのか忘れたのか。調査前のミーティングによりうかつに近づくのは危険、と何度も確認したはずだ。
「おれが行く」柴咲が前に出る。

〇友情

 様子がおかしい。と柴咲は感じていた。すぐに襲ってこないのはなぜだ。奇襲できたはずだ。空洞の奥へ進むと再び人影だ。手ごろな岩に腰かけている。恐る恐る近づく調査団の面々。
「チカヅクナ」バーコフが直接、団員たちの脳に語り掛ける。テレパシーにのようなものか。
「なぜだ?」と柴咲。
「……」
「……どうして我々の言葉が分かる?」
「あの男を喰ってしまったから」
「相手を喰えば、その人物を理解できるのか?」
「とんでもないことをしてしまった。あの人にも家族がいただろうに……」
 柴咲はバーコフの肩に手を置く。「どうしたいんだ?」
「一人になりたい……」
「そうか……」
 調査団の面々は自身の食糧や水を床に置いた。
「ここの入り口を爆破する」
 バーコフと我々が分かりあえるにはまだ時間が必要だ。我々はまだ幼いのだ。
「ありがとう」バーコフは言った。暗くてよく見えなかったが、きっと笑っているのだろう。そう柴崎は信じている。

〇もちろん

 フェイクである。いわゆるモキュメンタリーというやつだ。貧しい設定、貧しいCG、貧しいセットに貧しい演技……。Z級映画特有の貧しさ全てがここにある。心身に余裕の或る者が暇つぶしに見る映画だ。ポテチで手を汚しながら、見下すように笑ってみる映画。特異なある種の層だけに向けられた作品だが、ここで事件が起きる。公開直後のことだ。
 極北部ではなく、マーズトキオの郊外、低所得層向けの住宅地の再開発工事にて巨大な空洞が見つかった。映画よろしく重機が中に落ち、作業員が何やら不思議なものを見つけた。どうやら古墳のような——考古学者の見解——人為的な建造物が発見されたのだ。リアル火星原人バーコフに会えるのか注目が集まっている
 
 
 
 
2060年 日本 配給:ユービックファクトリー


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