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脳裏整頓 小説 vol,02

アイコン

「もうすぐ、高校生になって一週間だろ。」
前の席に座っている幼馴染が不意に声をかけてきた。
「そうだね。」
僕は適当に相槌を打つ。
僕が佐藤進士、前に座っているのが佐藤康太。
僕たちは家だけではなく、50音も近いのでこうして近くの席に座っている。
「やっぱり、高校生になったら彼女が欲しいよな。」
「そうだね。」
僕は適当に相槌を打つ。
「進士は欲しくないの?」
「僕はやっと高校生になったばかりで、そんな余裕はまだないんだよね。」
「そっか。確かにクラスメイトの顔もまだちゃんと見れてないもんな。」
登校中の交通機関内はもちろん、クラスに入っても全員がマスクをしている今、僕たちはお互いの顔以外知らない。
「やっぱりさ、顔って大事だと思うわけよ。」
「そうだね。」
「でもマスクは外せないでしょ。」
「今やマナーだもんね。」
「そう。でもそんな俺らの顔を唯一見せれるものがあるじゃん?」
「なにそれ。」
「アイコンだよ。SNS系のやつ。」
「なるほどね。」
「でさ、ひとつお願いがあるんだけど。」
「なに?」
「俺のかっこいいアイコン撮影に協力してくれない?」
「別に良いけど。でも今のペットと一緒のやつも僕は良いと思うよ。」
「そうか? 俺的には無しだな、ちょっとブレてるし。」
「そっか、まあ協力してもいいよ。」
「本当、ありがと。」
「で、どんな写真にするの。」
「モテそうなやつ。」
「全く分からん、けど背景が海で写真撮ってる人多いよね。」
「確かに。それ有りだわ。」
「じゃあそれにする?」
「んー、4月の海風寒いからな。他のがいい。」
「じゃあ他何かある?」
「花とかは。」
「なんか狙いすぎな気もする。」
「ネットに何かいい写真の構図ないか探してみるね。」
「俺も探すわ。」
    

「これよくない?」
「夜の自販機の灯りで撮ってるのか。」
「なんだかミステリアスでいい気がする、女子って謎の男に惹かれるじゃん?」
「それは知らんけど。確かにかっこいいわ。」
「でしょ。」
「今夜空いてる? 明日から本格的に学校が始まるからそれまでに撮りたいんだよ。」
「空いてるよ、じゃあ暗くなったらマンション前の駐車場の自販機前で。」
「OK」
 

「おう、進士。」
「康太お待たせ。」
「じゃあ早速撮ろうか。」
「そうだな。」
二人は試行錯誤を繰り返しながら、順調に撮影を続けた。
「買ってる風はどう?」
「かっこいいけど、シルエットになって顔はよくわかんないよ。」
「じゃあ横からだな。」
「これいいんじゃない?」
「確かに。俺かっこよくね。」
「うん、すごくかっこいいよ。」
「ありがと、進士も撮ってやるよ。」
「僕はいいや。」
「そう言わずに。ほら。」
「じゃあ、こうかな。」
「お、かっこいいじゃん。」
「なんか恥ずかしいな。」
「別に恥ずかしくないだろ、男なんて俺らみたいにモテしか考えてない生き物だし。」
「僕はモテ以外も考えてるよ。」
「とにかく早速設定して、俺らのアイコンかっこよくしようぜ。」
「わかった、ありがとう。」
「おう、こっちこそ。 また明日な。」
「うん、また明日。」


「おはよう進士。」
「おはよう康太。」
二人はマンションのエントランスで話している。
「ちゃんと設定したか?」
「したよほら。」
「よし、早速クラスメイト特に女子と交換しようぜ。」
「そうだね、せっかく昨日撮ったもんね。」
二人はいつも通りおしゃべりしながら学校へ向かった。


「では以上でホームルームは終わりです、一限目の準備をして待つように。」
担任の先生が教室を後にすると、少しだけクラスがにぎやかになる。
それは二人も例外ではなく、今日は進士から話しかけてきた。
「あのさアイコンをカッコよくしたのはいいけど、どうやって女子と交換するの?僕たちみたいに中学校から一緒組が多くて、仲の良いグループはいまさら連絡先交換なんてしないでしょ。がっついて高校デビューっぽくなるのも避けたいじゃん!」
「そうだな。」
「どうやって自分からスマートに聞くつもりなの?」
「それはな。」
「クラスの誰かがきっかけを作るのを待つんだよ。」







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