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【短編】 座敷わらしみたいな少女

「あたしは、見える人にしか見えないの」
 確かに、その座敷わらしみたい姿をした少女と話をしたり、誰かに紹介しようとすると周りから変な目で見られてしまう。
「よく分からないけど、妖怪っていうのはそういう存在だから、あまり気にしてもしょうがないでしょ?」
 少女はそう言うが、自分にだけ何かが見えてしまうのはとても怖いことだし、見えないほうがたぶん幸せだ。
「あたしは、自分の姿がちゃんと見える人間がいるだけで嬉しくなっちゃう。あなたみたいな人間に会ったのは百年ぶりよ」

 少女は、私が自宅にいるときも、外出先や会社にいるときもずっとそばに居た。
 今は一人になりたいからと言えば、数時間は姿を見せなくなるが、基本的にはいつも一緒だ。
「あなたと居ると、なんだか落ち着くのよね。波長が合うっていうか、あたしの存在が安定するの」
 私には恋人も友達もいないし、一人暮らしを始めてからもうだいぶ長いから、誰かと一緒に過ごすことに慣れていない。
 でも、彼女の存在が邪魔になるわけではないし、これはこれでいいかと思った……。

 少女が現れてから五年後、彼女は、私にとって空気のように当たり前の存在になっていたが、突然変なことを言い出した。
「あたし、人間になりたいの。あなたが、あたしにキスをしてくれたら人間になれるの」
 いろんなことがよく分からなかったが、少女にキスをすることは倫理的にどうなのかや、彼女が人間になったら誰が面倒をみるのかも考えなければいけない。
「別に、そんなのどうでもいいんじゃない? あたしがあなたとキスしたいんだし、人間になったら、あたしも働いてお金を稼ぐから」
 子どもは働けないから、まずは中学校まで学校に通わなければいけない。
「じゃあ、中学校を卒業するまであたしの面倒をみてよ」
 まあ、それぐらいは出来ないこともないけど。

 結局、私は少女の希望を受け入れて、彼女を人間にしてしまった。
 彼女は小学三年生から始めて、七年後に中学校を卒業した。
「もう一度あたしとキスしたら、あなたはあたしと同じ、十代の頃に戻れるよ」
 そう彼女は言うが、私の十代の頃には、嫌な記憶しかない。
「じゃあ二回キスしたら、あなたと同じ年齢になれるように設定する。あたしは、あなたとずっと一緒にいたいだけなの」
 人間と妖怪は、棲む世界が違うんだ。
「でもあなたは、あたしにキスしてくれたし、ずっと優しかった。それにあたしは、いま人間です」

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