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【短編】 冷蔵庫と妹と、二週間の出来事

 ある朝、私は変な夢から覚めると、自分が冷蔵庫になっているのに気づいた。
 目が覚めたのは、一緒に住んでいる妹が、牛乳パックを取り出すために冷蔵庫のドアを開けようとしたときだった。
「あれ、なんかドアが固いんだけど」
 妹は、朝起きると牛乳パックから直飲みするのが習慣になっているから、妹用と、私がたまに飲んだりする牛乳パックは別に用意してある。
「あ、やっと開いた。ぐびぐび……はぁ。でも、ちょっと足りないから兄さんの牛乳も飲んじゃえ!」
 私用の牛乳パックを直飲みする妹の頭を叩こうとしたが、私は今、ただの冷蔵庫なので手を出すこともできない。
「そういえば、兄さんは早起きしてキッチンで朝ごはんを作っているはずなのに……、今日はどうしたんだろう?」
 妹は、私の部屋や、家じゅうを探したが私を見つけることはできなかった。
「え、どういうことなの! 朝ごはんは?」
 妹は少しパニックになっていたが、とりあえず食パンを咥えながら学校へ行った。
 
 私は、自分が冷蔵庫になってしまった状況をどうしたらいいのか、いろいろと考えてみた。
 でも、今は冷蔵庫でしかないから、食品を冷やすこと以外には何もできないという結論に至って、絶望した。
「ただいまー」と言って妹は学校から帰ってきたが、やっぱり私はどこにもいない。
「まあ、兄さんにもいろんな事情があるだろうし、そのうち帰ってくるでしょ」
 妹はそう言うと、三十分ぐらい家から居なくなったあと、コンビニのレジ袋を持って帰ってきた。
 レジ袋の中身は、牛丼と、ポテトチップスと、一リットルの牛乳パック。
 妹は、スマホをいじったりしながら、二時間ぐらいかけてそれらをすべて消費した。
「ぐはっ……、兄さんがいないから牛乳を飲みすぎちゃったけど、また買いにいかなくちゃ」
 妹は、とにかく食料を調達するのに必死で、一週間もすると、食卓の周りは弁当殻や、牛乳パックや、お菓子の袋が散乱する状況になった。
 
 私が冷蔵庫になってから二週間ぐらい経ったとき、妹と一緒に、同じ学校の制服を着た女の子が家にやってきた。
「お兄さんこんにちは」と、その少女は冷蔵庫の私に言って、お札のようなものを貼ったあと呪文を唱え始めた。
 すると私は、冷蔵庫の中から空気のように抜けていき、何だかよくわからないけど二週間ぶりに人間の姿に戻ることができた。
「彼女が妙に暗い感じがしたので無理に家まで来てしまいましたが、よかった」

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