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【短編】 一文字一円の小説

「あなたの小説を、一文字一円で買取します」という広告だった。
「誰にも読んでもらえない小説があるなら、思い切ってお金に変えましょう! 今なら、どんな素人が書いた、どんなにつまらない小説でも、一文字一円で高価買取を実施中!」
 どんなにつまらない小説、と言われるのは不愉快だし、作品の著作権は業者側に渡ってしまうという条件付きだが、どうせ誰も読まない小説なら売ってもいい気がした。
 しかし、信頼できる業者かどうかよく分からないので、とりあえず、昔書いたぜんぜん面白くない千文字の小説を売ってみることにした。
 業者のサイトでユーザー登録を済ませると、割と簡単に小説を売ることができた。
 そのあと、銀行口座を見たら、ちゃんと業者から手数料なしで千円が振り込まれている。

 私は失業していたので、とりあえず小説を書いて、それを売ることでしばらく生活を繋ぐことにした。
 以前、私は趣味で小説を書いていたから、文章を書くことには慣れている。
 でも実際にやってみると、一日で一万文字を書くのが限界で、毎日無理しないで書ける文字数は五千文字程度だった。 
 さらに、週に一日は休むことを考えると、小説を売って得られる収入は、月に十二~十三万円程度。
 さもしい計算だけれど、月に十二~十三万円あれば、なんとか今の生活を乗り切れるという希望が見えてきた。

「あなたの小説は、一部の人たちから熱烈な支持があるため、著作権を返還します」
 小説の買取を始めてから一年後に、業者側から突然メールが届いた。
「弊社が買取しているのは、誰も興味を持たない小説だけであり、人気が出てきた小説や作家に関しては、著作権の返還と契約の解除を行っております」
 そういえば、以前見た利用規約の中にそんなことが書いてあった気がする。
 一部の人たちって誰だろうと思ったが、ようするに、私はもう小説を売ることができなくなったわけだ。

 今後どうしたらいのかと頭を抱えていたら、「あなたの詩を、一文字五円で買取します」という広告が目に入った。
 一文字あたりの値段が小説の五倍だから、ずいぶん割がいい。
 私は詩なんて書いたことはないが、とりあえず自分が思う詩のような文章を千文字書いて売ったら、銀行口座にちゃんと五千円が振り込まれている。

 こんな商売が成り立つ世界は、完全におかしいと思うが、それでも何とか生きて行けてるのだから、案外捨てたものじゃないのかもしれない。

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