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【短編】 あなたの悪夢、食べます

「無料で、あなたの悪夢を食べます」と書かれた、変なチラシだ。
「わたしの飼っている獏という生き物は、悪夢を食べないと生きていけません。でも、わたしや家族の悪夢は全部食べてしまったので、もう獏の食べるものがありません」
 何かの冗談か、新手の悪徳商法だろうと思って、そのチラシはすぐに捨ててしまった。
 しかし数日後、私は、ある女の子が、獏と思われる生き物に頭から食べられている夢を見て真夜中に目が覚めた。
 とりあえず水が飲みたくなってキッチンの照明を付けると、食卓の上に、数日前に捨てたはずのチラシが置いてあった。

 翌日、私は昨夜のことが気になって、チラシに書いてある住所に行ってみることにした。
 自宅から数キロ離れたその住所は、住宅地の中にある普通の民家であり、とくに怪しい様子はない。
 思い切ってその家の呼び鈴のボタンを押すと、四十代ぐらいの疲れた顔の女性が出てきたので、私は例のチラシを女性に見せた。
「娘が待っていますので、どうぞお上がりください」
 家に上がって案内された部屋には、夢で見た十代ぐらいの女の子と、獏と思われる変な生き物がいた。
「来てくれてありがとう。今夜はうちに泊まってくれるのですよね?」
 私は、ただ変な夢の原因が知りたかっただけだが、女の子の深刻そうな顔を見ると協力せざるを得ない気持ちになった。
「チラシを見て本当に来てくれた人はあなたが初めて。どうか、獏のバフンを助けて下さい」
 バフンは、女の子の飼っている獏の名前だが、なぜそんな名前を付けたのかというエピソードは長くなりそうなので聞かないことにした。
「あなたは、客間のベッドで寝てくれるだけで大丈夫です。あとは獏のバフンが悪夢を食べてくれますから」

 私は、悪夢を見ることが多いようで、たびたび女の子の家に泊まるようになった。
 そして、最初に訪問したときから一年後には、彼女の家に一緒に住むことになり、元いた部屋を引き払ってしまった。
「あなたが来てから、獏のバフンも元気になってきたみたい。これからもずっと、うちに居てくれたら嬉しいな」
 彼女の家に居れば、温かい食事も出してくれるし、家賃もかからない。
 でも、獏の餌になるだけの人生って何だろうなと思った。
「あなたとは二十歳ぐらい違うけど、あなたが望むなら結婚して、この家で獏のバフンと一緒に幸せに暮らしましょ」
 この女の子は狂っているけど、悪くない提案だなと思う自分もいる。

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