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さよならハイライト

この恋は、きっと爛れる。

あいしてやまなかった煙草をやめて今日で5年と8日が経った。
あれから何度か吸ってみたけれど、いよいよ煙草が苦手だとうそぶけるほどに手放すことができた気がする。
ラムのような甘い香りのする煙と、体に負担をかける17mgのタールを吸っては吐いて。
体のなかが煤けてしまうんじゃないかってほど吸っていたのに、やめるときは意外とあっさり決別できちゃうもので。

いまどれだけすきでも、あいして執着していたとしても、いずれ手放す日がきてしまう。それも、きっといとも簡単に。
そう思えば思うほど、目の前のものを大切に思える気がして、わたしは何度も終わる日のことばかりを考える。

燃えるような執着心も抱けないまま燻って、たいした熱も持たないままじわりじわりと痛んでいくさまはまるで低温火傷だ。
気づかないうちに深く深く潜り、思いのほか残る傷になる。
いつか手放した日に、わたしになにが残るのだろう。
どうせなら、消えてしまわないほどの傷とやさしい痛みがちゃんと残っていきますように。


※言うまでもなくフィクションです。

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