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第2回目査定(ピアノじまい⑨)

その日がやってきた。
約束の時間から30分が経った頃、弟から連絡があった。

「終わったよ。なんか思ってたより使えそうだったみたい。」

ああ、よかった!

音が出るか確かめて、内部も細かく確認。外側も磨けばきれいになりますね、とのこと。
フェルトを替えなきゃならないところがあり、随分昔に廃業してるピアノメーカーだったから、部品が調達できるか、その音楽教室の先生が良く知っている調律師さんに確認してもらった結果、それもOK。
調律が甘いピアノ用の曲なんですよって、1曲弾いてもくださったらしい。

なんて、なんて有り難いこと。

あとは、引き取りを希望されてる方に実際に見てもらって、どうするか判断してもらうことに。

数時間後、引き取り希望の方が来られる日時も決まり、その日は私が立ち会うことになった。

話が一気に進んだ感じ。

やはりこの方に見てもらって良かった。
引き取り希望の方に見てもらうという最後のハードルがあるとは言え、予想を遥かに超えた好感触に心が躍った。

自分がとてもお世話になったピアノは、今やもう全く価値がないものになってしまったのだなと感じていたから。
それもこれも、私がもう少しまめにメンテナンスしてれば違ったのかもしれない、でも仕方なかったんだ。それ以外に、自分の気持ちの持っていきようがなかった。
だから、ちゃんと価値のあるものとして見てもらえたということが本当に嬉しかった。

そうすると、第1回目査定の判断は何だったのか?
それは、調律師さんの見方と、古いピアノを生かす活動をしている人の見方が違っただけのことなのだと思う。
調律師さんとしては、まだ知らない誰かの手に渡らせなければならないわけだから、売れやすいものかどうかという視点で見るのは当たり前のこと。
有名メーカーであることや、状態が良いことは必須条件だろう。

一方、今回の第2回目査定の場合、引き取りを希望している人がもう既にいて、その人がどの程度のピアノを希望しているかがわかっているから、有名なメーカーでなくても、修理が必要な状態だったとしても、希望者の条件に合っていさえすれば良いのである。
そして、私がたまたまそういう方に当たったというだけのことなのだ。
そう、私にとっては、この音楽教室の先生を紹介してもらえたことが本当にラッキーだったと言える。

少し前向きな気持ちで、引き取り希望の方と会う日を迎えられそうだった。


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