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デザインプロセスについての洞察

Xデザイン学校ベーシックコースでの10ヶ月が終了しました。

最後の発表では、完璧なプランを提示できたとは言えないものの、自分達ができた事とできなかった事をちゃんと認識できて、清々しい気持ちで終わる事ができました。

様々な経験の中で学ぶ事が沢山ありましたが、中でもチームメンバーとの議論やそれぞれの専門分野についての雑談から得たものも多かったと感じています。

先生からかけて頂いて、影響を受けた言葉を具体的に上げると切りが無いのですが、特に私は企業の課題と向き合う時の態度についてお話させて頂いた事が印象に残っており、仕事への向き合い方を大きく変えるきっかけになりました。

体験的な学びについてまとめようと考えていたのですが、どうしても最後にプロセスを自分なりに整理して終わりたくなり、長くなりますが、まとめます。

プロセスと視野

UXデザインのプロセスを学び、普段のプロジェクトでも活用しながら、この期間の中で私は「プロセスと視野」についてより深く思考してみたいと思うようになりました。

サービスデザインについて考える時、「ホリスティック」という概念が度々登場します。全体を包括的に捉えるという意味ですが、実際にホリスティックにものごとを捉えながら、その中で振る舞うのは並大抵な事では無いと感じています。

ユーザーを考えているうちにビジネスが疎かになり、サービスを考えているうちに企業のビジョンがブレていったり。複数の事柄が交わる点を見つけるために、あちらを立てればこちらが立たずを繰り返し続けました。

目的がはっきりしている状況で全体を捉える事はできても、目的や問いそのものを作ろうとする時に全体を捉えるのは困難です。なぜなら全体そのものを作ろうとしているのだから、、これでは禅問答です。

デザインをするという行為の中で、拠り所となるものは何なのでしょうか。または出発地点はどこにあるのでしょうか。

テクニックを覚えるだけでは捉えられない問題を少しでも紐解くために、プロセスの理解を通して、その外側を捉えたいとずっと考えながらこの期間を過ごしていたように思います。

課題へのアプローチパターン

ケースバイケースという言葉で片付けず、プロジェクトの経験をパターンとして蓄積していく事で、精度と効率をあげていくべきだと思います。チームが何を目指しているのかを認識する事が問題解決への第一歩なのかもしれません。

デザインプロジェクトの目的はすべて、対象が今の状態からより良い状態へ至るための方法を考える事です。

より良い状態とはどんな状態なのかという、ビジョンやゴールは具体的なものであるべきですが、そこに到達する方法は無数に存在します。

人間中心設計はリサーチとプロトタイピングによる仮説検証のプロセスが中心になるので、方向性の策定や、アイデアの決定のプライオリティに関しては画一化された方法論がある訳ではないように感じます。

プロジェクト設計で特に障壁となるのは、ダブルダイヤモンドにおける収束の過程、意思決定に関わる部分が、ある種の直感やセンスによってもたらされる事に依存せざるをえないからなのだと考えました。

収束の判断が間違っていれば別の可能性を検証すれば良いのですから、早い段階で間違いに気づく事、さらに言えば間違いが定義できる事が大切だと思いました。

目の前の事柄に集中するあまり、調査しているのか、分析しているのか、発散しているのか、収束しているのか、自覚できなくなる事が多々ありました。

自覚を持ちながら仮説と検証を繰り返し、プロセスの方向性を常に調整する意識を持てれば良かったと思います。

フレーム問題

認知科学でよく知られる問題に「フレーム問題」というものがあります。AIに問題を解決させる場合に、状況に関連する情報を全て与えると、可能性の検討がオーバーフローを起こしてしまうというものです。

何かが「ある」という事を証明する事にくらべて「ない」という事を証明するためには、関連する事象を全て検討しなければならず、その処理は原理的にエラーとなるか、著しく効率が悪くなってしまいます。

問題をいかにフレーミングするというかという事が、プロジェクト設計で大切だと感じており、フレームが間違っている場合は速やかに別のフレームを検討する柔軟さも問われると思います。

プロジェクトの適切なフレームを設定する意思決定こそが肝なのだと理解しました。

HCDプロセス

HCDプロセスを今一度俯瞰する事で、そのプロセスが提供してくれる視座と、プロセスモデルが取り扱っていない領域について意識できるようにしたいと思います。以下の図は今回我々が10ヶ月で行なったステップです。

HCDプロセスでは、ユーザーの分析とプロダクト開発のための仕様設計のテクニックが用意されています。

しかし、プロジェクトの目的やフレームを規定するための方法は殆ど含まれておらず、HCDプロセス単体で全てに対応できるという類のものではないという事に注意が必要です。

いわゆる「知識の収納庫」と呼ばれる、主体となる人物に状況判断が委ねられている事を意識しないと、単純にフレームワークを適用するだけの意味のない行為の連続になってしまいます。

デザインプロセス

HCDプロセス以外のデザインプロセスにも目を向ける事で、プロセスが取り扱わない領域について理解を深めたいと思います。

このプロセスでは、「ブランド」への意識からスタートしている事が特徴です。そして、HCDプロセスよりも概念が大きい考え方です。

HCDプロセスではこの「社会との繋がり」「ブランドの意識」の洞察がプロセスに含まれていない所に実行者が意識を向けなければ、プロジェクトのフレームを決める事が困難になってしまいます。

業界や社会を広く知るという事が、意思決定の精度に大きく関わるるのはプロジェクトを進めて実感しました。

サービスデザインのテリトリーと関係性

デザインプロセスを元に、サービスデザインに関わる要素を「社会」「ブランド」「ユーザー」「サービス」と置いてみます。

ユーザーとブランドが交わる所がサービスであり、サービスを形作るために双方の理解からのアプローチが必要です。また、ブランドとユーザーを包括する社会への理解が、プロジェクトのフレームを適切に保ち、マーケットとの接続への思考を生み出します。

それぞれの要素を前提(変えられないもの)と、作る(変えらるもの)、マクロとミクロに分類します。

マクロなものに対してはマーケットへの意識、ミクロなものへはプロダクト、前提のものへはリサーチ、作るものに対してはクリエイティブでのアプローチが行えるというように整理しました。

それぞれのアプローチの縦横軸と別で、表をクロスする部分に注目し、それぞれの斜めの要素が結び付いている事が、スケールのために必要なのだと考えました。

「社会動向」を背景に持った「サービス」
「ブランド」に対する「ユーザー」の共感

という具合です。ただし、クロスさせるためには横軸と縦軸に対応する職能を越境した視野を持たなければならなそうです。

マーケティング・プロダクティブ・リサーチ・クリエイティブを横断する必要があり、サービスデザインが総力戦だという意味も私なりに実感できました。

思考の種類

フレームワークは演繹的分析と、帰納的な概念化・一般化は扱いますが、アブダクションに対しては論理的なフレームワークはありません。

「インサイト」と呼ばれる、事象への洞察はプロセスのどこに存在するのでしょうか。

HCDプロセスでは「HCDプロセスの必要性の検討」と呼ばれる段階がプロセスのスタートに定義されています。この部分にインサイトと呼ばれる気づきと、それに伴う問題のフレーミングが内包されていると考えます。

「驚くべき事実に対する気づき」のような段階が、帰納や演繹のような問題解決のための思考とは分けて存在しており、その創造的な思考の段階を如何に生み出すのか、またはそれが如何に一般化困難なのかという事を今回は実感しました。

米盛 裕二著「アブダクション〜仮説と発見の論理〜」に引用されているイギリスの哲学者Kポパーの言葉

最初の段階、つまり理論を考えついたり発明したりする行為は、論理分析を必要とするものではなく、またできるものでもない、とわたくしには思える。
新しい観念ー音楽の主題であれ演劇における葛藤であれ、あるいは科学の理論であれーを、人がどのようにして思いつくのかという問題は・・・経験心理学にとっては大いに関心のあることであろうが、しかし科学的知識の論理分析にとってはかかわりのないことである。
したがってわたくしは、新しいアイディアを発案する過程と、それを論理的に吟味する方法および吟味の結果をはっきりと区別することにしよう。

仮説を立てた先のフェーズでは、先人が開発したフレームワークが多く準備されており、そのプロセスとフレームの理解で多くの問題には対処できます。

しかし、もっとも重要な「問いを立てる」という段階とその問いへの仮説立てに関しては、一般的で普遍的なアプローチに頼らない姿勢を持って挑みたいと思います。

デザインはどこからはじまるのか

プロジェクトを進めるにあたって、抽象度や対象を切り替えながら適切に思考していくには大変困難が伴います。

小さなプロジェクトであれば個人の頭の中で統合的なアプローチがある程度可能だと思いますが、複雑な事象に向き合う時、チームでの情報共有は困難を伴います。

しかし、プロジェクトの創世記においては、「驚くべき事実に対する気づき」を持つことができた人間がその考えを如何に外化してメンバーと共有するかに注力する必要があり、メンバー全員で共創的に気づきを持つことはかなり難易度が高いと感じました。

共創は時には強力なパワーを発揮しますが、プロジェクトのフェーズによっては、気づきを持ったメンバーの積極的なオーナーシップと、質の高い意識伝達がプロジェクトに適切なフレームを与え、大きな推進力となってくれるのだと思います。今回我々のチームでもそのような場面が何度かありました。

早い段階で気づきを共有し、そのフレームの中での仮説検証プロセスを回し始める事こそが、プロジェクトのエンジンスタートに不可欠だと思います。

帰納的、演繹的アプローチから得た知見から、新たな可能性をアブダクションして、それを繰り返す姿勢の中から輪郭がゆっくりと浮かび上がってくる事を信じ、検証を繰り返すマインドセットが大切だと感じました。

プロジェクトのフレームを決めるのは、フレームワークではありません。

プロジェクトは常にインサイトを燃料にして燃え続ける事を欲しています。リサーチやプロトタイプは燃料を作るための手段であり、目的では無い事を忘れないようにしていきたいと思います。

最後に

長くなりましたが、多くの体験の中から考えた事を書き連ねました。

ここからは自分のプロジェクトに向き合い、実行する中から体験として身につけていきたいと思います。

Xデザイン学校で、改めてデザインの仕事の難しさ、面白さを感じる事ができました。学び続けながら仕事ができる事ほど幸せな事はありません。

先生、ベーシックコースの皆さま、そして何と言っても優秀なチームメイトのおかげで10ヶ月楽しむ事ができました。末筆ながら、お礼を申し上げます。ありがとうございました。

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