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プロダクト開発に活きる行動経済学

(主にソフトウェアの)プロダクト開発をする上で知っておいた方が良い行動経済学の用語・概念について説明します。ここでは『ヘンテコノミクス』で紹介されている用語・概念に沿って書いていきます。この本の紹介、及び行動経済学のざっくりした説明はこちらから御覧ください。

※気になった概念はその概念名でググってより多くの例を見るとイメージがつきやすいと思います。

アンダーマイニング効果

自分が好きでしていた行動(内発的動機)に、報酬(外発的動機)を与えられることによってやる気がなくなってしまう現象のこと。言葉としては、「土台を壊す、弱体化させる」という意味。

例えば、今までユーザの好意で(報酬なしで)アンケート回答、SNSシェア、友達紹介をやっていたところに金銭などの報酬を与えてしまうと、これらの行動をする気がなってしまう、報酬なしにはしなくなってしまうということが考えられる。

フレーミング効果

同じ情報でも言い方を変えると異なる印象を与える現象のこと。絵画のフレームのようなもので、どこを強調するかによって印象が変わる。

いくつか例を見てみる。

①・ユーザの90%が満足
 ・満足できなかったユーザは10%だけ

①利益を強調した方が効果的な場合は前者のような書き方をすると良い。

②・あなたのダイエットをサポート
 ・肥満を放っておいたら万病につながる

②悪い事態を防ぐものの場合、損失を強調した方が効果的になることが多く、今回は後者の方が心に響く。
(損失を示して顧客の購買意欲を高めることをフィア・アピールと言う)

③・5点同時購入で20%引き
 ・5点同時購入で1点無料

③結果的にはどちらも同じことを言っているものの、人は「無料」という言葉に弱いので後者の方が効果的なフレーズになる。

④・1年で36,500円
 ・1日あたり100円、缶コーヒー1つ分です

④後者の方が、価格を小さくして安いものと比較することでお得感が出ている。

負のインセンティブの効果

例えば毎週・毎月定期注文するサービスがあったとする。かつ、締め切りを過ぎてから「内容を変更するのを忘れてしまったので今から変更できないか」という問い合わせが多くあったとする。この現象を解消するために「締め切りを過ぎてからの変更依頼には追加料金をいただきます」という制度を作ってはいけない。こうしてしまうと「お金を払えば遅れても大丈夫」「遅れた人に対してのサービスが提供されている」という意識が生まれてしまい、締め切り後の問い合わせが逆に増える結果となってしまう。追加料金制を導入する前は「締め切りを過ぎたら申し訳ない」という社会的なモラルが働いていたが、追加料金という具体的なペナルティが提示されるとその意識は変わってしまう。

アンカリング効果

最初に印象的な情報(多くは数字)を与えることで、その後の意思決定に影響が出てしまうことを言う。「アンカー」は船の碇のことで、最初に提示した情報がアンカーとして固定されてしまい、その後の思考に影響を及ぼしてしまう。

よくある活用例としては、定価と割引後価格を表示する例。割引後価格だけ提示されるより、アンカーとしての定価も提示されていた方がお得に感じられる。

プロダクトで言うと、例えば「お問い合わせは2営業日以内に返信します」と書かれていて1営業日で返信が来た時と、「お問い合わせは1営業日以内に返信します」と書かれていて1営業日で返信が来た時では前者の方が心象が良いはず。

さらに、このアンカーとする数字は全くもって関係ない数字でも影響を及ぼすことが明らかになっている。ある実験で、10か65を書かせてから「国連加盟国のうちアフリカ諸国が占める割合」について質問したところ、65と記入したグループの方が割合を多く見積もっていた。これをLPなどにうまく活用できれば自身のサービスをより良く見せることができるかもしれない。

保有効果

一度でも保有してしまうと、実際よりも高い価値があると感じてしまうこと。

サブスク系のサービスであれば「○日間無料お試し」の仕組みを用意して、一度そのサービスを使うことによる快適な体験を「保有」してもらうと良い。この「無料お試し」に関しては、何らかの良い行為を受けた時にお返しをしなければという感情を抱くレシプロシティという効果も一緒に働く。

ハロー効果

ある対象を評価するときに表面的な特徴に引きづられ、全体の評価をしてしまうこと。ハローとは後光のこと。

もし何かの賞を受賞していたり何かのランキングで上位に入っているのであれば、それを押し出すと「いいサービスなんだ」と思ってもらうことができる。

同じように、口コミの評価が高いと「多くの人がこれだけ評価しているのだから」と思い、実際の質よりも高く見てしまう傾向がある。

目標勾配

目標の達成が間近になればなるほど、やる気が出てくること。

ダイエットアプリであれば、もう少しで目標体重に到達する頃になったら、単に現在の体重を表示するだけでなく、「あと○.○kg減らせば目標達成!」という表記をすればやる気が出てダイエットが加速するかもしれない。

学習系のアプリであれば、あるテストの点数が6割だった時に「次は7割を狙おう」と声かけるか「次は満点を狙おう」と声をかけるかでやる気が変わってくる(前者の方がやる気が出る)。

無料の威力

「○○円以上の購入で送料無料」などの無料表記を見てしまうと、予定していた以上の出費をしてしまう傾向がある。無料という言葉は人を強く引きつけ、費用対効果を度外視してしまう。

この性質を利用してサブスクサービスの最初の一定期間を無料にするとユーザの食いつきが良いかもしれない。さらに言うと、サブスクの一定期間無料施策は、現状維持バイアスの効果によりサブスクをやめるという現状を壊すことに抵抗を感じ、止めにくくする効果もある。

デフォルト効果

最初から設定されているデフォルトの値からわざわざ変えようとしない心理現象のことを言う。これは先にも紹介した現状維持バイアスも影響していると思われ、余計な思考を働かせないようにしているともとれる。

この効果を使えば、企業側にとって都合のいい選択肢を選ばせやすくすることも、ユーザにとって最もメリットのある選択肢を選ばせやすくすることもできる。

ピーク・エンドの法則

ある体験の中で最も感情が高ぶった瞬間(ピーク)と、最後の終わった瞬間(エンド)の印象を平均したものが、その体験の印象になるというもの。途中退屈な何かがあっても、ピークとエンドさえ良い印象であればその退屈な印象はある程度かき消される。

もしユーザが不快な思いをして問い合わせてきた場合(ピーク)は、フォローを手厚く行う(エンド)ことで悪かった印象を和らげることができる。

意図的に良いピークとエンドを作ることで、ユーザに好印象を与えることもできる。あまり良い例は思い浮かばないが、何かの一連の動作の終わりにちゃんと感謝を伝えることで良い印象は持ってもらいやすいと思われる。

決定回避の法則

多数の選択肢があるとかえって迷いや戸惑いが生じてしまい、決断を遠ざけてしまうことがある。

例えばECサイト等でむやみに多くの商品をアピールしてしまうとユーザが迷ってしまい、購入しなくなる可能性がある。少数の商品に絞り込んでレコメンドするなど、ユーザの負担を減らしてあげるのが良い。

終わりに

ここで紹介したのは行動経済学の一部ですし、もっと多くの事例、活用アイディアを見ることでどんどんイメージが広がっていくので、ぜひ行動経済学に関する記事や本を自分でも読んでみてください。

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