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noters [five] 釜煎りされたワル

「GOEMONと呼ばれた鬼」という作品が、久保マシンさんのご自分のアカウントで発表されています。これはそのオリジナルとなったものです。

太閤秀吉さまの御世(みよ)のこと。
京を騒がす鬼がいた。
徒党を組み出没し悪事三昧。
欲すれば、密かに盗むか力まかせぞ。
女子供も容赦せぬ。

太閤さまがはるか海の向こうへと手を伸ばしなされば、
こぼれざいわい、我もの顔の鬼どもが闇の都を闊歩し踊る。

やつらの欲は留まりゃせぬ。
公家衆、町衆、武家衆までが戸をたてうち震え、百鬼夜行を避けんと祈るばかり。

あるお方が欲垂れた鬼の頭目の耳元で囁いた。
「成就の暁、そなたたちが百年暮らせる金銀財宝を」

伏見の新城へと忍ぶ鬼。
欲に眩む目、過信を顧みぬ。

今宵の宝は、寝所におわす太閤さまの首ひとつ。

音無く忍び入ったその刹那、
香炉の鳥がさえずった。

あれよあれよと鬼は囲まれ、逃げ場は失せた。
観念しろい、極悪め。

太閤さまはお怒りじゃ。
鬼の一族郎党、全て命を奪うべし。
三条河原に薪をくべ、狂い煮立たせた釜の油。
ざんぶと放り込まれたのがこの鬼の頭目の終(つい)でござる。

鬼の正体は抜け忍ぞ。
「絶景かな、絶景かな」
富める者から盗り、窮する者に与えた義賊ぞ、鬼にあらず。
ありがたや、ありがたや。忘るまじ。

笑止、笑止。
かような賊はなく鬼もなく。
ただの伝え語りじゃ。
芝居や草子だけの咄(はなし)じゃ。
ああ戯れ言じゃ。
詮ずるところ夢なのじゃ。

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何が真実でどこから嘘かは不明である。
だが、少なくともそのワルの存在は作り話ではなかった。
あの夏、日本に滞在していたイエズス会宣教師ペドロ・モレホン。
彼がとある貿易商の記録に加えた1つの注釈が、鬼のような極悪男の存在を確実にした。

1594年の夏、Ixicava goyemonが生きたまま油で煮殺された。
一族も処刑された。

かつて架空の義賊とされていた石川五右衛門。
それをひっくり返して実在の盗賊だと確認できたのは、この1つのnote(メモ)が見つかったおかげだった。


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絵:久保マシン(Y)


この作品を元に久保マシン(Y)さんがアレンジした作品はコチラ。


ぜひ併せてお楽しみください!


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