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息をするように本を読む103〜杉井光「世界でいちばん透きとおった物語」〜

 この本については、ずいぶん前に新聞の書評で「電子書籍全盛のこの時代に、紙の本でしか読めない本」と書かれていて、いったいどういうことなんだろう、と、紙の本をこよなく愛する私はとても興味をそそられていた。

 そして、fullhouseさんのこの記事を読み、これはぜひとも読まねば、と思った。

 そして、今、読み終わって、「…うっわー」という、なんとも言えない思いのまま、感想文を書こうとしたのだけれど。

 いやいや。
 これは、困った。
 何を書けばいいのか。
 何を書いても、ネタバレになりそうだ。

 本自体は、文庫で200ページと少し。
文章も決して難解ではなく、サクサクと読めてしまうし、ストーリーも何の引っかかりもなく、スルスルと頭に入ってくる。
 慣れた人なら、1日もかからずに読了してしまうだろう。

 主人公は藤阪燈真(とうま)という名の青年。
 フリーランスの校正者をしているシングルマザーの母親とずっと2人暮らしだったが、母は燈真が高校生のときに交通事故で亡くなった。
 それから2年が過ぎたある日、燈真の、生物学上でのみの父親で大御所ミステリー作家、宮内彰吾が亡くなったと知る。
 
 燈真の母親は妻帯者の宮内と不倫の末に燈真を宿し、堕胎を勧める宮内に逆らって燈真を生んだ。
 燈真は、この父に認知もされていないし、生まれてこのかた一度も会ったことすらない。自分と母親を煙草の吸い殻のように簡単に捨てて、全く顧みることのなかった宮内に対して愛情はもちろん、憎しみすらも抱いていない、まるで無関心だった。
 そんな父親が死んでも、彼の日常は何も変わることはないはずだった、のだけど。

 数日後、燈真は、ある人物から宮内が死ぬ間際まで執筆していたと思われる、まだ未発表の小説の存在を知らされ、諸事情により、渋々その遺稿(?)の行方を探すことになる。
 
 その、誰も見たことがない幻の小説のタイトルが「世界でいちばん透きとおった物語」なのだ。

 燈真は母の仕事仲間の編集者の女性の力を借りて、生前の宮内のことをよく知っている人々に話を聞いてまわるが、全くと言っていいほど、なんの手がかりも見つからない。
 こんな雲を掴むような話、無理なんじゃないのか、と思われていたのだけれど。

 と、書けるのはここまで、だろう。

 文庫の帯にも、ネタバレ厳禁、と書いてあった。
 そもそも、ネタバレ厳禁、と書いてある時点で、どんでん返しがありますよー、と言ってるみたいなものやん、むしろ、これってネタバレ違うんかい、などと、読む前には思っていたのだけれど。
 でも、そう思うこと自体が、もはや作者の意図にはまっていた、のかも。
 
 こういう、どんでん返し?仕掛け?を売りにする(ように思われる)本って、ともすれば、そちらに全重量を置いてしまって登場人物の心情やキャラはなおざりになる傾向がありがちだけど、そこのバランスもよく出来ていると思う。(誰目線)
 というか、そこもポイントなのかもしれない。

 というわけで(どういうわけだ)、今まで書いた感想文の中で、おそらく最短のものになってしまった。(すみません)
 とにかく、一度読んでみていただきたいと思う。
 特に、紙の本が好きな、多くの人たちに。

 本を読むことは私には特別のことではない。生活の一部であり、呼吸することと同じことだ。

 ストーリーとは直接関係ないのだが、燈真が父の宮内のことを尋ねて回った人たち、作家仲間、編集者、宮内の他の愛人たち、他にもいろいろいたのだけれど、皆が口を揃えて、宮内の絶筆が存在するのならぜひ読んでみたいと言う。
 プライベートの宮内の評価はまちまちで、正直、あまり褒められたものではないのだけれど、でも、作家としての宮内に対する評価は皆、一致しているのだ。
 これって、本当に作家冥利に尽きる話だと思う。
 宮内本人が知ったらどう思うのかは、わからないけど。

 最後になりましたが、fullhouseさん、この本を教えてくださってありがとうございました。
 最高の読後感を味わいました。
 どんな読後感か、ここに書けないのが、とてもとても残念ですが。

*****
今年も残すところ、数日となりました。
来週の月曜日は元日なので、お休みをいただき、次の投稿は8日になります。
皆様の記事は読ませていただきますし、コメントもさせていただくかもしれません。
ひょっとしたら、小さなつぶやきくらいはさせていただくかも。

皆様、今年もお世話になりました。
ありがとうございます。
どうぞ、佳いお年をお迎えくださいませ。

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#やっぱり紙の本が好き

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