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つれづれ雑記*氷山とオーロラと勇者の剣とタンバリン、の話*

 友達同士やカップルで、お洒落なレストランで食事中。
 突然、店内の照明が落とされて
  〜〜ハッピーバースデー〜〜
 の音楽。
 キャンドルが灯されたケーキが席まで運ばれてきて沸き起こる拍手。
「誕生日、おめでとうー」の声。
 照明が再び点いて、パンパンッとクラッカーの音。
「わー、びっくりしたー。ありがとう」

 トレンディドラマ(古いな)のワンシーンによく出てくるヒロインの誕生日のサプライズシーン。
 
 残念ながら私自身はこんなシーンに遭遇したことはないのでよくわからないが、都会ではこういうのは日常的に見られる光景なのだろうか。

 これとは若干状況が異なるが、特にサプライズとかではなく、飲食店で特定のメニューを頼んだら食べ物の味には関係のない思いもかけない演出が付随していて、びっくりしたことがおありではないだろうか。

 実は、私はこれまでの人生でそんなことが何度かある。

 まずひとつ目は、アラスカ、という名前のスイーツの話。

 学生の頃、友人と映画を見た帰りに立ち寄った喫茶店。
 メニューを眺めていて、ケーキだのプリンだのの中で「アラスカ」という言葉が目にとまる。
 
 アラスカ、って何?と思って、説明を読むと。
 ベイクド・アラスカ。
 アイスクリームにメレンゲをかぶせ、何かでペタペタと叩いて(?)ツノを出す。これをアラスカの氷山に見立てる、らしい。
 そこにブランデーをかけて火をつけると、アルコール分が燃えて青白い炎が上がる。これが氷山の上のオーロラ、になる、ということなのだろう。
 しばし炎の色を楽しんだ後、香ばしい焦げ目のついた熱いメレンゲと中のまだ冷たいアイスを一緒に食べるという趣旨のスイーツ、だそうだ。
 友人が「面白そうやん。頼んでよ」と言う。だったら自分で頼めばよさそうなものだけど。
「いやー、何か恥ずかしいやん?」
 自分で恥ずかしいと言うものを私に頼ませるのか、とは思ったものの私もちょっと好奇心が湧き、注文することにした。

 しばらくして、友人が頭上を見た。
「あれ、何か電気、消えてへん?」
 私も見上げると私たちの席の上だけ照明が消えている。
「何?どういうこと?」
 すると店の奥から店員さんが、「アラスカ」が乗っていると思しき銀色のトレイを運んできた。そして、ニコニコしながらテーブルにトレイを置いて
「火が消えてから、お召し上がりくださいねー」
と言って去った。
 え、もう、火、点いてるの?

 もしかして、氷山上の青いオーロラ(?)が見えるようにわざわざ私たちの席の照明を落としたのかもしれないけど、今は昼間だし他の席の灯りがついていて結構明るいので効果はほぼない。
「火、見える?」「うーん、どうやろ」
 火がついているままでは食べられないので、メレンゲ氷山の上に手をかざしたり横から眺めてみたりしたが、よくわからない。
 近くの席のお客さんたちは物珍しげにチラ見してくるし、ちょっと恥ずかしかった。
 ようやく火が消えた(たぶん)後に急いで2人で食べたけど、味は全然覚えていない。
 あの「アラスカ」は今もあるのだろうか。

 もうひとつは、社会人になってからしばらくして参加した学生時代の部活のOB会でのこと。
 所用があって私は少し遅れて店に着いた。当時流行っていた洋風居酒屋みたいところだったと思う。
 「すみませーん」と言いながら席に行くと、他のメンバーたちが既にオーダーをしてくれていて、お料理が各テーブルにいろいろ並んでいた。
「何か頼みなよ。飲み物と、あ、何か食べたいものあったら、それも」
 そう言われたけど、来たばかりでよくわからない。
 迷っていると隣の席の先輩が
「あ、これ頼んでよ、これ」
とメニューを指差した。名前はよく覚えていないが、何か、海賊とかパイレーツとかそんな言葉がついてたような気がする。
「じゃ、それで」
 店員さんがニコニコ(ニヤニヤ?)しながら下がっていった。
 しばらくして、その店員さんの笑顔の意味がわかった。
 店内の照明が少し暗くなり(またか)、さっきの店員さんが別の店員さん2人を従えてワゴンを押してやってくると、私の席の前で止まった。
 え、何? どういうこと?
 店員さんがワゴンの上の銀色の蓋?みたいなものを開けると現れたのは、ゲームとかに出てくる勇者の剣みたいな串(結構長くて、5、60センチはあったと思う)に肉やピーマンやとうもろこしやトマトなんかが刺さって香ばしく焼かれたものが2本。焼きたてらしく、ジュージューと音を立てている。
 バーベキューみたいなものか、よかった、変なものじゃなくて、とホッとしたのも束の間、その店員さんがその2本の串を左右の手に1本ずつ持って、何やら口上を述べ始めた。そして、あろうことかその場で踊り?始めたのだ。  
 クルッと一回転しては串を頭上で打ち合わせてチャリン、反転してはまたチャリン。
 そしてその間、他の2人の店員さんが横で小さなタンバリンをシャラシャララーと鳴らしている。
 いったい、何、これ。
 なすすべ無くポカンとしている私の横で先輩や他のメンバーは笑いを堪えているし、他のお客さんたちはみんなこっちガン見してるし。
 店員さんのパフォーマンスが終わるまではおそらく30秒ほどだったと思うが、それが数分くらいに長く感じられた。
 その後、店員さんは笑顔のまま、串に刺さっている具材を長いフォークで器用に外すと私の前のお皿に盛りあげて、空の串を持って一礼してワゴンを押して去って行った。

 呆然としている私を見て、メンバーたちはまた大爆笑。
 どうも、このメニューを頼むとこういうことになることをみんなは知っていたようだ。
 怒ってもしょうがないので、私は半分呆れ半分笑いながら、目の前の皿から肉をひとつ取って食べた。
 ほらごらん、いらんことしてるから冷めてるやん、と思いながら。
 
 当然かもしれないが、このときの肉の味もあまりよく覚えていない。

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