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つれづれ雑記 *卒業写真を夏に撮った話

 私の小学校の卒業アルバムは2冊ある。

 私は入学した小学校で卒業式をしなかった。父の仕事の都合で小6の夏休みに転校したからだ。

 転校することを連絡したとき、担任の先生に卒業アルバムをどうするか聞かれた。
 転校した先の小学校でも卒業アルバムはあるだろうが、入学以来5年半通った小学校のアルバムも欲しいのではないか、と考えてくださったらしい。アルバムの積立金の関係もあったかもしれない。

 私は親と相談して、欲しいですと答えた。
 卒業アルバムは卒業式終了後に転居先に送ってもらえることになった。

 6年生の2学期以降の授業風景や運動会のスナップ写真には私は写らないが、もちろんそんな贅沢は言えない。
 1年生から5年生までの音楽会や運動会、キャンプ、遠足などの学年行事の写真には写っているし、何より6年生のメインイベントの修学旅行は1学期にもう行っていたので、その写真が載っているだけでありがたい話だった。

 ただ、問題はクラス集合写真だ。
 クラス集合写真は11月から12月頃に撮ることになっていた。
 クラス写真に自分が写っていない卒業アルバム、というのもちょっと寂しい気がしたが、まあ、仕方ないかな、と思っていた。

 7月になって担任の先生から、ある提案があった。
 
 クラス写真の撮影を前倒ししたらいいんじゃないか。
 写真屋さんに聞いてみたら大丈夫らしいよ。

 ということで、普通は秋から冬に撮る卒業アルバムのクラス集合写真を、我がクラスだけは夏休み前に撮ることになった。

 問題は服装だった。
 先生たちはスーツ姿なので特に関係ないが、児童に関しては他のクラスの集合写真がみんな冬の服装なのに、1クラスだけ夏服なのは不自然だろう、ということになった。

 私が通っていた小学校は、夏服は水色の半袖、冬服はグレーの長袖スモックという上着だけの制服があった。
 夏制服は任意だったのでほとんど着ている児童はいなかったが、グレーのスモックは春、秋、冬、と着用することが決まっていた。
 合服などというものはないため、スモックの下に着る物で暑い寒いを調節していた。

 なので、卒業アルバムの集合写真は皆、この冬制服を着て写っていた。
 逆に言えば、下に何を着ていようとこの冬制服さえ着ていれば違和感が無いわけだ。

 写真撮影の日が決まり、我がクラスは各自、当日に冬服のスモックを自宅から持ってくることになった。
 今から考えると、1人の児童の卒業アルバムのために保護者の方々にも本当にご迷惑をお掛けしたものだと冷や汗が出る。

 そういうわけで、我がクラスは七月の暑い盛りに、家から持ってきたグレーの冬のスモックをTシャツや半袖ブラウスの上に着て、体育館の前の階段に並んで全体写真を撮ることになった。
 すごく暑かったと思うが(正直、よく覚えていない)、出来上がった写真には気温は写らないので、知らなければ全然違和感はない。
 周囲の草や木が他のクラスの写真に比べると妙に青々しているのは、まあ目をつぶってもらおう。

 翌年の春が過ぎ、小学校から卒業アルバムが送られてきた。(先生、クラスの皆さん、写真屋さん、ありがとうございます)
 写真で見る限り、夏に撮ったとは分からない(と思う)。
 
 残念ながら、あのときのクラスメイトとは現在、まったく交流がない。
 でも、彼らの中の誰かひとりでも、何かの折にこのクラス写真を見て、1人の転校生のためにわざわざ夏に冬制服を着て撮ったことを思い出し、家族にちょっと風変わりな思い出話として、面白おかしく話してくれていたらいいな、などと厚かましくも考えている。

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