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海の子

小学校が終わると、一目散に海に向かう。
男の子も女の子も、皆真っ黒だ。

ジュースの空き缶に、砂を入れて遠くに投げる。
空き缶はゆらゆらと海底深く沈んでゆく。

我先にと潜り奪い合う。
飽きもせず何度も。お気に入りの遊び。

遠く投げたジュースの缶は、
だれも潜れないような深みに沈む。

しぶきを上げたあたりを目指し、
頭を垂直にして一気に潜る。
誰よりも速く、深く。

海底の砂に半分埋もれた缶を拾って、
海の中から太陽の光を探す。

波の音も友達の声も、
遠くに聞こえる。

ふと、何かがきしむ音がする。

船の音、機械の音。
それとも、海の声。

手を伸ばせば届く水面に、
太陽の光がきらきらゆれる。

私は浮上をやめて、膝を抱え丸くなる。

浮くでも無く、沈むでも無く、
中性浮力を保ちながら、
鞠のようにまるまって、
浮遊する。

少しだけ吐く息の小さい泡が、
空に向かいのぼっていくのを薄目で見ながら、
もう少しこのままで居たいと思った。


2006年に初めて文字にした時も、体験から半世紀もたった現在も、
子供の頃の記憶を、昨日のことのように思い出せる。

この中性浮力を利用して、宇宙飛行士が訓練を受けていることを知り、
またあの感覚が鮮明によみがえる。宇宙か。。。宇宙でもあったのだね。

▶︎ NASAの中立浮力実験室で、宇宙飛行士が水中で宇宙遊泳の訓練を受けている様子。




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