【赤の少女と白い虎】 2夜. 不吉なメッセージ
いままでのお話はここから
絵・津山文子
。・。・。・
一番上の王子が、16歳の誕生日を迎えた日。
国中はいっせいに歓喜にわき、宮殿の前にはたくさんの人が集った。
この国では16歳になると、一人前の大人として扱われるのが習わしだった。
王子は皇太子としてこの日、人々の前に立った。
人々は我先にと祝福のことばを投げかけては笑い、歌い、踊った。
そのことだまは、七色の花びらとなって国をまるごと包み込んでいった。
王子の横には国王、妃、2人の弟たち、そして小さな姫の姿があった。
祝いは1日中続き、夜には祝祭の集いが宮殿で催された。
隣国の要人たちが、国王と王子への祝いのことばと品々をたずさえてやってきた。
その日一番最後に到着したのは、真っ白なローブをまとった背の高い男だった。
男はいった。
「親愛なる国王と皇太子。晴れの日を心よりお祝い申し上げます」
その瞬間、側近たちが少しざわつくのを、国王は見逃さなかった。
「お越しいただき感謝する。さて、あなたはどの国からの使者だろうか」
白い男は答えた。
「わたしの主人は、遠き空、そして近き空より、この国を長く見守ってきた翼の王。ぜひお耳に入れていただきたいことあり、参上しました」
最後まで言い終わるのを待たずに、側近たちが一斉に剣をひき抜いた。
その男は誰にも招待されていなかったからだ。
屈強な戦士に取り囲まれた白い男は、すくっと立ち上がった。
「我々は、いずれ世界をひとつにたばねる選ばれしものである。
この国とて例外ではない。
待たれよ。備えよ。
全てがひとつとなる、その日まで」
最後の言葉を待たず、いくつもの剣がその男に振り下ろされた。
真っ白なローブは塵じりに裂けて散っていった。
「見てはいけません」
妃は横にいた姫を固く抱きしめ、その目をふさいだ。
でも、姫は指のすき間から全部見ていた。
その男がズタズタに引き裂かれ、中から一羽のカラスが飛び立つ姿を。
無表情な漆黒の闇をたずさえた、そのまあるい瞳を。
「待たれよ、備えよ」
カラスは甲高く叫び、そのままバサバサと外へ飛びたっていった。
不吉なベールに包まれた祝祭は、その場で瞬時に閉じられた。
すぐに寺院からチャンティングマスターたちが駆けつけ、その場にいた人々は空間とともに一斉に清められた。
「天と地の名のもとに、胸から放つ光と調和が世界を導かんことを」
祈りのことばをききながら、姫はカラスのどこまでも黒い瞳を思い出していた。
この噂はすぐに国中に広がった。
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