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『クリスとみちる』 5話:出会い

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その人は僕たちに気づくと、ゆっくりと歩いてきて、お母さんをぎゅっとした。


次にしゃがむと、僕の顔をじっと見て、なんか言った。


それがあまりに近かったので、僕はちょっとうつむいた。


「おはよう、って」


 隣にいた女の人が言った。

 この人が日本語にする人?


「わたしの名前はクリスです。会えてうれしいですって」


 聞きながら、クリスが僕から目をそらさずにいるのがわかった。

 僕は一瞬チラっとだけクリスをみた。


 そして一言、「みちるです」と、すごくがんばって言った。

 

 すごく緊張した。


 その後、すぐに勉強は始まった。


 僕とお母さんの真正面にクリスは座っていた。

 そうしてみんなの顔をゆっくり見回していた。

 横にはさっきのちえこさんという通訳の女の人がいた。


 本当に輪になって座るんだな。


 僕は保育所を思い出していた。

 よくこんな風に座っていたから。


「まずは、呼吸を感じることから今日も始めます」

 クリスが話した後に、ちえこさんが言った。


 鐘が鳴り、みんなが一斉に目を閉じた。


 僕はお母さんが目を閉じて、じっとしているのを見て。

 クリスとちえこさんがそうするのを見て。

 少し目を閉じてみた。


 これが大切にする勉強?


 周りはすごく静かなのに、

 僕の頭の中では僕がずっとおしゃべりしていた。

 

 我ながらうるさいなあと思った。


 最後まで頭の中のおしゃべりは止まらなかった。


 そうして鐘が鳴り、みんなと目を開けた。

 クリスが僕のことを説明した。


 みんなが僕とお母さんを見るのが恥ずかしくて、ずっと下を向いていた。


「今日はクリスと智恵子さんに無理をいって、急きょ息子と一緒に参加させていただくことになりました。みなさん、どうぞよろしくお願いいたします」


 お母さんはゆっくりとそういった。

 何人かが笑ったり、うなずいたりしたのがわかった。


 正直、ちえこさんが話すクリスの話は、どうにもわからなかった。


 ずっと聞いていても、何の話をしているのか僕にはよくわからない。


 だから聞いている人の顔や、クリスが真剣な顔になったり笑ったりするのを見ていた。


 輪の中にいた、ある女の人が話しだしたときだ。


〜続く

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