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『クリスとみちる』 4話:出発

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 次の日、体が揺れて目が覚めた。

 


 僕は車の後部シートでブランケットに包まれていた。


「みちる、おはよう」


 膝まくらをしているお母さんと目が合った。


「・・・おはよう」

 

そう言いながら僕はまた目を閉じる。


「みちる、もうすぐ着くよー」

 運転席からお父さんが大きな声で言った。


「・・・うん」


 目を閉じながら、目が覚めてよかった、と思った。



 昨日の夜、お母さんはクリスという人に電話をした。

 


 正確には通訳をしているちえこさんという人らしい。

 僕を自分と同じ場所にいさせることができないだろうか?って。

 

 

 かなり難しそうな感じだった。

 

 僕は何度も途中で「もういいよ」って言いそうになった。


 別にその勉強がやりたいわけじゃない。

 お母さんがなんで、お母さんっぽいのかなって。それだけだったんだ。

 だからいいんだって。


 なのに最後の最後、あっさりオッケーになってしまった。

 

 でも条件付きだよ、とお母さんはにやりとした。



 お母さんが勉強しているのは、

「ゲシュタルト・アウェアネス・プラクティス」

 という長い名前の勉強らしい。


 今日で終わりだけど、他の人はもう二日間やっている。


 僕はその人たちのことを邪魔しないようにしなくてはいけない。


 条件は二つ。


1.眠くなったら眠る。無理しない

2.ペアになるときはクリスと組む


 ペアを組むといわれても、僕は何もできない。


「たぶん、何もしなくていいと思うよ」

「勉強なのに?」


「うん、いいの!」

 お母さんはやけに自信たっぷりだった。


 着いたのは十時ちょうどだった。


 送ってくれたお父さんに手を振り、階段をゆっくり上がる。


 重そうな木の扉をゆっくり開けると、

 いろんな人たちの声がさぁーっと流れ込んできた。


 輪に座っていた人たちが、一斉にこっちを見るのがわかった。


 僕はお母さんの後ろにすっぽり隠れるようにいた。

 

 ずっと奥に、金髪の女の人が誰かと話しているのが見えた。


〜続く

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